魔術庁への申請
「学院長、話がある。」
「フィロス、どうした?」
「ソフィア・ダングレーと婚約した。魔術庁にその許可をもらってくれ。」
学院長がじろっとフィロスを上目遣いに見るも、すぐに破顔する。
「ほう、ほう。やっぱり、お菓子に惚れ薬が入っておったかのう?」
「茶化すな。」
「ふむ、ふむ。それは重畳。魔術庁に届ける際になんと言おうかのう?普通の魔術師なら、あっさり受理されようが、お主は4大公爵だ。いろいろ煩く言ってくる輩が出そうだが。」
「だから学院長に頼んでいる。自分で届けずに。」
「面倒を押し付けおって。」
ふと思いついたように、学院長が、ぽん。と手をたたく。
「君ら2人はステラ、だったな?」
「ああ。」
「よし。研究のための結婚にしよう。わしが、ステラの夫婦から生まれる子供もステラなのか確かめたい、という理由で申請をする。」
「…それは、…本心だな?」
「ふん。否定はせぬ。そもそも、ステラが何なのか、さっぱりわからん。全属性持ちかと思えばそうでもない。お主は複数の属性を使いこなすが、唯一、治癒が使えん。なのに、ソフィアは治癒も含めて全属性を使えそうだ。魔術師の持つ属性は普通1つだ。もちろん、他の属性が使える魔術師は多くいるが、自分の属性を10としたら、それ以外の属性はせいぜい2から3。それなのに、複数の属性を同じ力で持つステラはどうやれば生まれる?ソフィアは父がステラで、母が光だ。2人の属性を遺伝でもらったと言っても良いケースかもしれん。だが、お主は父が魔力を持たず、母の魔力は風だった。としたら、遺伝とは言い切れん。」
「…言っておくが、私の子供は実験台にはさせんぞ。」
「まあまあ、それはそれ。ともあれ、その理由なら、わしが部下に命令したという形で申請しても、おかしくなかろう。どうせ、お主が結婚を嫌っているのは知れ渡っておる。だが、わしの命令には忠実なことも。…貴族の娘はだいたい社交界デビューする15歳に婚約することが多いからの。時期的にも悪くない。早めに申請しておく。」
「助かる。」
「ところで、ダングレー侯爵夫人は承知しているのかね?」
フィロスは苦い顔をして、首を振る。
「ふむ。では、あちらに通知は不要じゃな。」
ランドール国では、貴族の結婚は貴族法により王宮に届け出が必要ですが、魔術師は貴族法から外れるので不要です。その代わり、魔術庁の管理となります。表の仕事ではちゃんと魔術師全員の戸籍や属性、仕事、住所などを管理しています。