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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院4年生
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リチャードの失恋



 リチャードと一緒に学院に隣接する小さな庭園を歩く。

冬枯れした庭園は寒々しく、他の生徒がいない。

ガゼボに到着した私達はそこで足を止めた。


「休み中、父と一緒に婚約を申し込みに行ったんだけど、許婚が決まっているから、と断られた。」

いきなり、本題に入られる。

「相手が誰か父が聞いたけれど、教えてもらえず。」


彼の目が私の左手に注がれる。


「立ち聞きになってしまって、申し訳ないけれど、聞こえてしまった。…ひとつ、教えてほしいんだ。家の都合で、許婚を押し付けられていないか?もし、そうなら、解消させるように動くんだけど。」


リチャードが私の目を覗き込んでくる。

その目には心配と、私を気遣うやさしい光があふれていた。


「ありがとう。リチャード。心配してくれて。大丈夫。私が自分で選んだから。」


リチャードが、ため息をつく。


「正直、君のその言葉を信じていいのか、自信がないんだけれど。ダングレー侯爵夫人は、あきらかに君を嫌っているように見えた。」


するどい。

おばあ様は外面的には、それを隠していたはずだ。


「…侯爵家に何か問題があって、例えば、借金があるとか、そういうのを助けるために、君が犠牲になってるというわけではないんだろうね?」


リチャードは、やさしい。

本当に、良い人だなあ。と思う。

フィロスのことが無かったら、この人に惹かれていた、と思うくらいに。


「心配してくれて、本当にありがとう。でも、そういうことは全然無いから。」

「そうか…。」

リチャードはまた、ため息をつく。


「そっか。失恋、確定?」

「ごめんなさい…。」

「いや、いいんだ。君が幸せになれるなら。しょうがない。でもさ、何かあったら、相談して?そんなこと無いにこしたことはないけれど。」

「ありがとう。」

「よしっ!…あ、そうだ。グレー教授に戦闘魔術の個人授業、頼んでたんだ。行かなくちゃ。」


リチャードが取ってつけたような言い訳をして去っていく。



私のことを一言も責めなかった。

本人は言いたいこと、たくさんあっただろうに。

私の周りって、本当にやさしくて良い人ばかりだ…。


「ここにいたら、凍えちゃう。」


ぶるっと軽く震えが来たので急ぎ、庭園に最も近い裏口から校舎内に小走りで駆け込む。

まだ授業が始まっていないので誰も廊下には居なかった。

しんと静まる廊下をそれほど歩かないうちにいきなり、私は口をふさがれ、おなかに手をかけられて、どこかの教室にひっぱり込まれた。


「!!」

悲鳴をあげようとして、声にならない声をあげたところに


「ソフィア」

頭上からよく知った声がして、口元をふさいでいた手が離れる。

「え?え?フィロ…、じゃなかった、スナイドレー教授?」


 びっくりして見上げた瞬間、上からいきなり唇をふさがれる。


「んーーーーー!-----!」


誰かこの教室に入ってきたらどうするのだ。

必死で逃れると、彼が険しい顔をしていることに気付く。


「モントレーと何を話していた?」

「はい?」

「2階の窓からたまたま庭園を見下ろしたら、ガゼボに2人がいたのが見えた。」

「ああ!心配してくださっただけです。」


祖母のところに来てくれたところから説明する。

けれども、話を聞いてもフィロスの怖い顔は変わらない。


「スナイドレー教授?」

「…異性と2人きりは、許さない。」

「でも?」


またもや、唇をふさがれ強く抱きしめられる。

息ができない。

「異性と2人きりにならないと、誓え。」

「絶対に、とは言い切れないけど、なるべく、そうします。」


険しい顔がますます険しくなるけれど、困る。




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