女子会での報告
始業式の前日になって、エリザベスとジェニファーも戻ってきた。
エリザベスとは同じAクラス。
ジェニファーはBクラス。
それでも、今年もご飯は一緒に食べましょうね、日曜日も出かけましょうね、と約束する。
「ティーサロンに行って、おしゃべりしましょ!」
3人でティーサロンに行って、紅茶にプチケーキの盛り合わせをテーブルに運ぶ。
今日は休み明けの友人との再会を楽しむ多くの学生が来ていて、空いている席の方が少ないけれど、たまたまちょうど空いた窓際の席に座れた。
「休み中のニュースある?」
ジェニファーが楽しそうに声をかけてくる。
「私、ケンドル農園でずっと過ごしたの。マークと一緒に過ごせて楽しかったわ!農園の中に湖があって、そこが凍って、スケートもできたのよ。スケート、初めてだったけど、マークに教えてもらってなんとか滑れるようになったの。」
「スケートはわたくし、やったことありませんわ。氷の上を滑るって素敵でしょうね?」
「気持ちよかったわ!リズやソフィも滑る機会があるといいわね。二人はどうしてたの?」
「パーティ三昧でしたわ。15歳になりましたので、社交界デビューできますでしょ。だから、オークレー公爵の正式な婚約者としてあちこち引き回されまして。」
口元に左手を当てて、エリザベスが微笑む。その手には。
「きゃあ。リズ。あなたも婚約指輪、いただいたのね?」
ジェニファーが、さっそく、目をキラキラさせる。
「ええ。建国祭の日に、いただきましたの。」
エリザベスの頬が、ほんのりピンクに染まる。うれしそうだ。
「素敵!!ピンクダイヤ?」
「そうみたいですわ。」
「さっすが、宰相閣下!見せて、見せて!」
エリザベスがちょっと照れながらも、左手を私達の前に差し出す。
「まあ、リングが、リーフの透かし彫りで、きれい!」
「それにしても、リズにはピンクダイヤがぴったりだけれど、宰相閣下もピンクダイヤ?何か、笑える!」
「うふふ。ライアム…あ、オークレーが2年しか嵌められないから、わたくしが今欲しい宝石を選びなさい、とおっしゃってくださって。ピンクダイヤを選んだら、さすがに嫌がられるかと思ったのですけれど、彼もピンクは好きな色だから問題ないと、おっしゃってくださって。」
「そうなんだ。でも、宰相閣下は金髪に緑の瞳で中性的な雰囲気があるから、意外とピンク色もお似合いかも?」
「うふふ。ええ。お似合いになってますわ。」
エリザベスがくすくすと、ジェニファーと笑い合っている。
と騒いでいた2人が、突然、
「あ!」
ちょっと、気まずそうになる。
「ごめん。決まった相手がいない、ソフィには、はしゃぎすぎて良くなかった?」
ジェニファーが申し訳なさそうに言う。
「ううん。全然、大丈夫。わたくしも…婚約が決まったから。」
「うそっ!」
2人の声が重なる。
「休み前、そんな素振りなかったじゃない?」
「休みの間に、決まったから。」
さりげなく、左手をテーブルの上に置く。
「きゃー!すごっ!ブラックダイヤ?うそぉー。初めて見た!」
ジェニファーが大興奮だ。
「ブラックダイヤ?」
エリザベスが不思議そうな顔をする。
「婚約指輪に、ブラックダイヤ、って珍しくありませんこと?」
…するどい。
指輪を窓際で光に透かすようにあてる。
「私の髪の色だから、選んだそうよ。」
2人の目が食い入るように、石に見入る。
「本当ですわ…。深い、藍色に…。信じられませんわ。ブルーダイヤの濃いもの、では、ありませんか?」
「ううん。ブルーダイヤで、ここまで濃い色はないわ。」
ジェニファーが否定する。
「ソフィの髪の色に合わせるなら、濃いサファイヤ、タンザナイト、の方が探しやすいのに、よく見つけたもんだ。藍色に近いブラックダイヤなんて。」
ジェニファーが、あきれたようにつぶやく。
ジェニファーの実家は大きな商会。
宝石も当然扱っていて、子供の時から鑑定する目を磨いてきているから、見る目は高い。
「お相手は、どなたなのかしら。相当なお家柄とお見受けするけれど?」
エリザベスが首をかしげて聞いてくる。
「ごめんなさい。それは、まだ内緒、で。」
「ええー、誰?私達が知っている人?」
私が答える前に、エリザベスがジェニファーを制止する。
「ジェニ。聞かない方がいいわ。貴族の場合、ぎりぎりまで他家に知らせないこともあるの。政略的な意味でね…。そうだったとしたら、ソフィの口からは言えないわ。」
「リズ。ありがとう。」
「いいえ。でも、わたくしもうれしいですわ。3人そろって良い相手を見つけられたのですもの。」
「そうね。うん。そうだね。」
ジェニファーも笑う。
そこに、突然、
「ソフィア。」
と声がかかり、ふりかえると、リチャードが立っていた。
「すまない、ちょっと、良いか?」