ステラ塔の教授の部屋
誤字のご指摘をいただき、ありがとうございます。大変助かりました。また、何かお気づきがござましたら、ぜひ、お願いいたします。どうぞよろしくお願いいたします。
ようやく、物語の字数が、半分まで来ました。もうしばらく、おつきあいのほど、どうぞよろしくお願いいたします。
あっという間に学院へ戻る日が来て、一足先にフィロスは馬車で出発した。空のかなたに馬車が消えていくまで、私は見送った。
簡単な昼食をいただいてから、私も学院へ戻る準備をする。
「お嬢様、夏休みにお戻りになるのをお待ちしておりますね。お気をつけて、行ってらしてくださいませ。」
マーシアが微笑みながら、玄関ホールで挨拶してくれる。
「ありがとうございます。行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
他の使用人たちの声も重なる。
玄関を出て、学院に戻りたい。と目をつぶり強く願う。
空気が変わったのを感じて目をあければ、いつもの通り、龍の炎の円環の前に転移していた。
ステラ塔に行く前に学院の大ホールに立ち寄る。
4年生のクラスは、うん。よし。Aクラスのままだ。今回は9名か…。
成績は、…悔しい。また2位。うう。頑張ったんだけど…。
ステラ塔に速足で向かい、寮室にトランクを置く。
…実は今回、マーシアにはトランクいっぱいの洋服やら靴やらを詰められていた。
お母様のために作られた洋服ではなく、私のために仕立て屋が仕立てた学院で着られる洋服を。
こんなに要らないと言ったのに、日曜日にフィロスとデートする機会があった時に困るでしょう。と押し切られて。
クローゼットにしまうのは後回しにして、ステラ塔の1階ロビーに立つ。
「フィロス?」
大声を出すのもはばかられたので、小さい声で呼びかけただけなのに、ロビーの奥に見たことが無い螺旋階段が出現した。
螺旋階段に駆け寄ると、上からフィロスがおりてくるところだった。
「フィロス!」
「ソフィア。おいで。」
差し出される手を取り、フィロスと一緒に螺旋階段をのぼる。
そこには寮室のドアとはまた違ういかめしい鉄枠が嵌まった、どっしりした黒い扉が見える。
「おじゃまします…。」
入った部屋は殺風景で、ラウンドテーブルに椅子が2脚だけ。
そこを通り抜け奥の部屋に案内されると書斎になっていて、壁の一面が本棚。
窓際に書斎机。本棚の反対側の壁際にソファと小さなティーテーブルがある。
「そこに、座って。」
ソファに座るように促され、座る。
「ここは、寝るために帰るだけだからね、何も無いんだ。」
そう言いながらも、お茶を出してくれる。
「いただきます。」
炎の円環の門から学院まで走ったためか喉が渇いていたので、ありがたくもらう。
「ここに、時々、来ても良いですか?」
フィロスは困ったように考え込む。
「平日はここに戻るのがいつも深夜だ。日曜日も居ないことの方が多い。会いたいと思ってくれるなら、執務室に来てくれる方が助かる。」
こっくりと、うなずいた。
「そうします。」
フィロスが私を抱きしめる。
「君が学院を卒業する日が、待ち遠しい。」
「え…と。わたくしは、ずっと学院にいたいです。」
「なぜ?」
「卒業したら、長期のお休み以外、会えないんでしょう?あ、それとも、サピエンツィアに卒業した後なら住めるの?」
「…君が卒業したら同時に、私はこの学院を辞める。」
「え?」
「もともと、教職を辞めたかったんだ。結婚は、公爵として専念する良い機会だ。」
髪をフィロスが愛おしそうになでる。
ふと見れば、その手にはすでに白い手袋がはまっていた。
「そういえば、フィロスはなぜ、学院では手袋をしているの?きれいな手を隠して、もったいない気がするのだけれど。」
「仕事柄、としか言えないな…。」
ちょっと困ったように、フィロスは言う。
「君には隠し事をしたくないが、それでも、今は言えないことがたくさんある。結婚したら話せることもあるから、それまで、私の仕事には立ち入らないでほしい。我慢してくれないか?」
こくりとうなずく。
この学院の教授達は本職が別にある。
入学式の時のオリエンテーションでの説明を思い出す。
フィロスの本職が何かはわからないけれど、全国を駆け巡らなければならない重要な仕事に就いているのだろう。
手袋だけではない。
彼はいつも顔以外の肌を服で隠し、晒していない。
まるで全身を防具で固めた騎士みたいだ。
命の危険が大きい仕事なのだろうか。その時、ほんの少し不安がよぎった。