2人で過ごす休暇2
今日は、今年最後の日。
建国祭の翌日以後、寝るとき以外はずっとフィロスと一緒に過ごした。
いつもは年が明けたらすぐ、つまり明日、学院に戻る私だけれど、今回はフィロスと一緒に戻りたい。
「フィロスは、いつ学院に戻るの?」
「教師は授業が始まる5日前までに、戻っていないといけないから、1月5日の早朝。」
「じゃ、私もその日に一緒に戻る。…だめ?」
「だめじゃない…が、うーん。困ったな。」
「どうして?」
「私は自家用の例のペガサスで戻るんだが、ソフィアは学生だから龍の円環を通らないといけない。」
「あ!…そうなのね。」
「1月5日、私は早朝にここを出るが、ソフィアはゆっくりお昼くらいに学院に来ればよい。…ステラ塔で、待っているから。」
「あ、ステラ塔。でも、私、教授達が暮らしているという4階以上に行く方法、知らないんだけど?」
くっと、フィロスが笑う。
「当たり前だ。生徒を私室に招きたい教授なぞ、おらぬ。…ステラ塔に入ったら、私を呼べ。部屋への道を開く。」
「ソル塔と同じなのかな?」
「うん?」
「学院長の部屋には入れてもらえたことがあるから。」
「入ったのか?」
「ええ。」
「…学院長が、ね…。君に興味を持っている、ということか?」
フィロスが口元に拳を当てて、ぶつぶつ言いながら、何やら考え込んでいる。
「フィロス?」
「今後は、学院長の部屋にも行かないでほしい。」
「ええ?」
「他の男性と2人きりは、絶対にダメだ。」
「ええー?…そういえば、学院長は奥様、いらっしゃるの?」
「独身だ。」
「そうなんですか…。でも、ハッカレー公爵当主、ですよね?跡継ぎは?」
「弟の子供が養子に入っていたはずだ。…ああ、他の男性の話もするな。」
「ええええ?」
「うるさい。」
フィロスに唇を重ねられて、話をさえぎられる。
フィロスは嫉妬深く、独占欲が強い。
でも、これほど愛されたことがないので、とまどいつつも、幸せだと思ってしまう自分に戸惑う。
「そういえば、婚約したこと…。学院で話をしても良い?の?」
「ふむ…。」
フィロスの眉がひそめられる。
「婚約したことは公表してよい。いや、むしろ、しろ。君にちょっかいを出されてはかなわない。ただ、私の名前は伏せておくように。」
「?」
「魔術庁にちょっと調整が必要だ。学院長にも手を回してもらうが、何日か、かかる。それが終わるまで、で良い。」
私の頭の中にちらっと、リュシュー先輩から聞いた、魔術庁の裏の顔の話がよぎる。そういえば、魔術庁は魔術師同士の結婚にも手を出すことが今でもあるんだろうか?
「わかりました。そうします。あの、でも、指輪の色から8家…。スナイドレー公爵を連想されませんか?」
「それは心配ない。家の色が決まっているのは8家だけだし、使わなければならない場所は限られている。アクセサリーなどは個人の好みで好きな宝石を使って構わない。
…私も婚約指輪を新しく作ることを考えたが、このブラックダイヤ以上の宝石を見つけられなかった。このブラックダイヤは特殊で、日の光のもとでは藍色に輝く。ソフィア、君の髪の色だ。そして、日の光があたらないときは黒色で、私の髪の色。2人の色をこの宝石は持っている。だから、私はこの指輪を選んだ。」
「2人の色…。」
「そう。だから、誰かに聞かれたら私のことは言わず、君の髪の色に合わせて作ってもらった。と言えば、問題ない。」
…。なんだか胸がいっぱいになる。
2人の色を含んだ石。いつまでも離れず、一緒だと告げられているかのようで。
窓際に駆け寄る。
曇天で太陽は見えないけれど、窓の光に指輪をかざせば、ブラックダイヤは確かに藍色に色を変えた。私の髪の色。でも、それよりも、まるで私が大好きな学院の森にある、あの藍色の湖のような色を思い出させた。2人を結び付けてくれたあの場所を。
次回から、4年生となって学院に戻ります。国内状況が内乱へと、緊張をはらんでいきます。