2人で過ごす休暇1
「そういえば、昨日は建国祭でしたね?」
フィロスの書斎で、同じソファに座ってお茶を飲んでいるときふと思い出して、隣で本に目を通しているフィロスに声をかける。。
「ああ、そうだったな。留守にしていてすまない。本来ならお祝いでにぎやかに過ごす日だったのに。」
「いいえ、帰ってきてくださっただけで、幸せでしたので。…それに。」
「それに?」
「あの、プロポーズしてくださって。うれしかったです。アムールの日のお返し、どーんともらえちゃいました。」
そう、建国祭の日は男性が女性に愛を告白する日だ。
はっとしたように、フィロスが眉を上げる。
「アムールの日。…すまない。せっかく、君がお菓子を作ってきてくれたのに、ひどいことを言った。」
にこにこして、首を横に振る。
「いいんです。想いが叶ったんですから。もう、気にしていません。」
「あのお菓子、おいしかった。ありがとう。」
「召し上がっていただけたのですか?」
屑籠に放り込まれていたので、捨てられたと思っていたので、びっくりする。
「学院長に、お菓子に罪はない。と言われて。」
「わあ。学院長に今度、お礼を言っておきます!」
「いや…。」
フィロスが私に手を伸ばしてくる。
そっとその手を取り唇に引き寄せて、彼の手の甲に唇をそっと重ねた。
「ソフィア。」
彼の手が私の肩に回り、彼のそばにぴったり身を引き寄せられた。
「何か、困っていることはないか?」
少し迷ったけれど、心にひっかかっていたことを思い切って聞いてみる。
「あの。今更ですけど…。フィロスは4大公爵でしたよね。わたくし、ダングレーを名乗ってますけど、父がフォルティス人で、母も勘当されて平民出身ってことになってますけど、あの…、大丈夫でしょうか。」
「大丈夫、とは?」
「えっと、おうちの方から反対がある、とか?」
「…私に反対できる親類はいない。」
「え?」
「心配しなくてもいい。それに、君の魔力は膨大だ。ステラでありながら治癒も使える、そんな稀有な魔力持ちは、私でなくても、8家が迎え入れたいと思うはずだ。…現に、婚約の申し入れがあった…、と侯爵夫人から聞いたが?」
「あ、それは…。」
「モントレーとライドレーだったか?君が学院で親しくしているのは?」
急に肩に回された彼の手に力が入り、爪が食い込んでくる。
「フ、フィロス?痛いです。」
はっとしたように、フィロスは手を肩から離してくれ、ほっとする間もなく、いきなり、ぐいっと抱き寄せられる。
勢いよく抱き寄せられたのでフィロスの膝に乗ってしまった。
慌てて膝から降りようとしたけれど、強く抱きしめられて彼の腕の中から逃げられない。
低い声が頭上から降ってくる。
「…婚約したことを、後悔しているのか?」
「え?違います!」
「モントレーか、ライドレーに心を残している?ああ、年齢的にも彼らの方が君にふさわしいか?」
「違いますって!」
「誰にも渡さない!やっと手に入れた、君を。」
フィロスが唇にキスしてくる。荒々しく押し付けるかのように、
そして、唇を割って舌が侵入してくる。
「ん!ん!やめ…。」
彼の胸をこぶしで、たたく。
やっと離れたと思ったらいきなりまた強く抱きしめられ、胸に顔を押し付けた状態から動けない。
「離さない、今度こそ、絶対に…。」
途方にくれた。急にどうしたのだろう?
息が苦しくなりそうなほど、ぎゅっと抱きしめられて動けないまま、しばらく大人しくしていた。
「すまない。君が離れていくのかと思って取り乱した。リディアナ…。彼女が離れて行ってから私は全てを諦めて、何も感じないように感情に蓋をしたのだけれど。君と会ってから、その蓋が外れてしまったようだ…。」
フィロスがようやく腕の力を緩め、私の髪をなでる。
「幸せはリディアナが去った後、もう縁がないものだと諦めて、求めようともしなかったのに。だけど、君と一緒にいる幸せを知ってしまった。この幸せを手放すことはできない…。手放すくらいなら、君を殺して、自分も死ぬ。」
フィロスの瞳に暗い炎が燃える。
「フィロス、お願いだから、落ち着いて。」
「ソフィア…。」
「私はあなたのそばにいるから。いえ、いたいの。だから、死ぬなんて言わないで。」
独占欲、炸裂。リディアナを失った原因の一つでもありましたが、そう簡単に人は変われません。