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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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名前で呼ぼう



 たいして待たないうちに、首の詰まった白いシャツの襟に黒のクラバット、黒いズボンに着替えた教授が戻ってくる。

ジンジャーティの入ったカップを教授に渡した。


「おかえりなさいませ。帰ってきてくださって、うれしいです。」

「ああ…。」

教授がカップを受け取りながら、とまどった表情を浮かべる。


「教授?」

「あ。すまない。その、誰かに待っていてもらえたのが、初めてで。」


教授が私の手に触れ、ほっとしたように言う。

「あたたかくなったな…。」

「教授の手が…冷たいです。」


びくっと、教授が私から手を離す。

「すまない。」


軽く首を横に振り、教授の両手を私の手で包み込む。

「お仕事、お疲れ様でした。わたくしの手はあたたかいですか?教授の手があたたかくなるまで、こうしていますね?」

「ソフィア…。」

手がふりほどかれ、教授に抱きしめられた。

「早く、会いたかった。」


 人に抱きしめられるって、こんなに安心するんだ。

ぎゅっと目をつぶる。

お母様には毎晩、抱きしめてもらったっけ。

でも、あの時とは違う種類の、幸せ。

そっと、スナイドレー教授の背中に手をまわした。

一瞬、教授がぴくっと身体を震わせたけれど、すぐに彼の抱きしめる力が強くなる。


どれだけ、そのまま、じっとしていたのだろう…。


ばちっと暖炉の薪がはぜる音が大きく響き、はっと我に返って思わず教授から離れる。


「あ、そうでした、夕食に行かないと?教授、おなかすいてますよね?」


どんな顔をして教授の顔を見ればよいかわからなくて、彼から背を向け、扉に向かってとってつけたように言う。

と、ふわっと、後ろからまた抱きしめられる。


「フィロスと。」

「え?」

「教授じゃない。フィロスと名前を呼んでくれ。」

「えええ…。」

「呼ぶまで、離さない。」

「え、と?…フ、フィロス様?」

「様、はいらない。」

「いきなり、無理ですっ!」


ぎゅっと締め付けるように抱きしめる力が強くなる。

頬に柔らかい何かが押し付けられている。

え…?もしかして、キスされている?


「フ、フィロス!」


ふっと後ろで笑い声がこぼれ、拘束を解かれた私の前に手が差し伸べられる。


「食堂に行こうか?」


熱く火照る顔をどうにかしたいと思いながら、彼の顔が恥ずかしくて見られず、

「い、行きましょう!」

と彼を置いて駆けだした。



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