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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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スナイドレー教授の帰宅



 スナイドレー教授が出かけて3日目の午後。


図書室で本を読んでいたところへ、執事のフィデリウスが急ぎ足で入ってきて、

「ソフィア様、公爵は今日の夕食までにお戻りになるそうです。」

と教えてくれた。


心がぱっと明るくなるのを感じる。

夕食まであと何時間だろう?3時間くらい?

玄関の横には、ドローイングルームがある。そこで待っていようか?

今読んでいる小説を持ったまま、ドローイングルームに向かう。


ドローイングルームの出窓からは、屋敷に入ってくる人や馬車が良く見える。

出窓に腰かけて小説を読みながら、時々窓の外を眺めたけれど、気になって読んでいる内容が入ってこない。諦めて本を閉じ、窓の外を眺めることに専念しよう。


「吹雪がひどくなってきたわ…。」


スナイドレー教授は外で寒くないかしら…?

屋敷の中はどの部屋も熱を放出する魔石が置かれており暖かいけれど、食堂とスナイドレー教授の部屋は暖炉の火を強くしてもらおう。暑いくらいに。


ドローイングルームを出るとばったり、執事のフィデリウスに出会ったので、食堂と書斎の暖炉の火を強くすることと、熱い飲み物をすぐ飲めるように用意することをお願いしたら、破顔され、喜んで。と承諾してもらえた。

ほっとしてまた、ドローイングルームの出窓に戻る。



 吹雪の中、外がどんどん暗くなり先ほどまで見えていた門が見えなくなってきた。と、その時、馬の蹄の音が遠くに聞こえた気がした。

さっと立ち上がり、玄関の扉を開けて数歩外に踏み出し、目をこらす。


「ソフィア様、外套も着ないで出られては…。」

と、後ろからフィデリウスが声をかけてきたけれど、彼の帰宅に気がそぞろで寒さは気にならなかった。

「あ!」


外に出て数分もたたないうちに、黒毛の馬に引かれた小型の黒い馬車が見えてくる。

間違いない、お帰りになった!

馬車が玄関の前に止まるとすぐにフィデリウスが馬車の扉を開ける。


「おかえりなさいませ!」

馬車の足台に足をかけたスナイドレー教授が目をみはる。

「ソフィア!」

そして、さっと顔色を変えたスナイドレー教授が私に走り寄ると同時にいきなり抱きあげる。

「きゃっ!?」

私は抱き上げられたまま、玄関から室内に連れ込まれる。

「冷たくなっているじゃないか!」

「公爵、書斎の暖炉の火が強くなっております。そちらにお二人で。」

フィデリウスが促す。


大股で私を抱き上げたまま、スナイドレー教授が書斎に向かう。

「あの、あの、歩けます!おろしてくださいまし!」

おりようと身をよじってみたけれども、抱き上げる力が強くなっただけ。

書斎に入り、暖炉の前のソファでようやくおろしてもらえる。


「マーシア!何か熱い飲み物を!」

「はい、はい、お嬢様から熱い飲み物を用意するように指示をいただいていましたので、お二人分ございますよ。」


マーシアがにこにこしながら、ワゴンを押して入ってくる。

ワゴンの上には、湯気が立ったジンジャーティが入っているカップが2つ。


「ついでに、毛布か何か…」

「教授!そこまで寒くありません!」

「いや、しかし…。」


マーシアがくすくす笑いながら、ジンジャーティを飲み終わったら、夕食におりてきてくださいまし、と言って出ていく。


「すぐにジンジャーティを飲んで。もっと暖炉に寄りなさい。椅子を動かそう?」

「教授、大丈夫です。外にいたのは短い時間です。それより、教授の方が冷えているでしょう?」

「いや、私は大丈夫だ。それより、病み上がりの君に何かあったら…。」

「もうすっかり、元気です!…あの、コート、脱ぐのお手伝いいたしましょうか?」

「ああ…、いや、いい。隣室で着替えてくるから、ジンジャーティ飲んであったまっていなさい。」


教授があわただしく隣室に消える。


「なんか、すごい過保護?」


ふっと、お母様の日記を思い出す。

「お兄様は、口うるさい。」



 私が知っているお母様は誰かの指図を受けるより、てきぱきと自分で動く人だった。

気が強く街中で喧嘩が起きたら飛び出して仲裁するような元気な人だった。


「そんなお母様はきっと過保護にされたら、反発するような気がする…。」


 でも私だったら?

お母様は治癒院の仕事で忙しくて、昼間、私は治癒院の中で邪魔にならないように大人しく一人で過ごしていた。もちろん多くの患者さんたちが出入りする時声をかけてくれたり遊んでくれる人もいたけれど。でも本当はもっとお母様に甘えたかった。

侯爵家に引き取られてからは使用人にも嫌われてずっと一人ぽっちで過ごしていた。

誰かに蕩けるほどに甘えたことって無い……。

だからだろうか。

教授の過保護なほどの干渉がなんだか泣きたくなるほど。胸の中がキュッとする。



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