屋敷の探検
翌朝、目が覚め、ここどこだっけ?と周囲を見渡せば、スナイドレー教授の屋敷で寝ていたことに気付く。
「よかった…。夢じゃなかったんだ。」
ベッドから起きあがると、マーシアがすぐ入ってきて自分でできると言っても笑って、どうぞお任せくださいませ、と私を世話してくれる。
「フィロス様はお留守ですが、何かございましたら、わたくしにお申しつけくださいませ。」
「ありがとうございます。では、図書室に行きたいのですが?」
「図書室でございますね、承知しました。朝食の後でご案内いたします。」
食事を自室で食べ、スナイドレー教授が用意したという薬を飲んでから、図書室に案内してもらう。
「わあ…!」
屋敷の図書室は広かった。屋敷の1階から渡り廊下でつながっている。
天井は白い擦りガラスになっていて、そこからやわらかな外の光がさしこんで明るい。
三方の壁全部が書棚になっている。
3階建てで各階には螺旋階段で行けるようになっている。
「とても、広いのですね!」
「はるか昔から使っている図書室ですので。代々の公爵は本が好きな方が多く…。これだけ広くても、さすがにそろそろいっぱいになりそうですわ。」
「ぐるっと見て回っても良いですか?」
「もちろんでございます。わたくしは退室しますが、用がありましたらそこの机の上のベルを鳴らしてくださいませ。そうそう、学院で使う教科書と参考書はあちらの書棚にまとめて置かれています。」
「わかりました。」
1階の書棚から本の背表紙を見ていく。
教科書と参考書がまとまっている書棚はおそらく、代々の公爵家の子供が勉強のために使ったのだろう。古いものから最近のものまで一通りそろっていた。
それにしても、その書棚以外は。
「ジャンルがバラバラ。特に分類して納められているわけじゃないみたい。これは宝探しみたいで、わくわくするわ。」
図書室をざっと見て回った後、午後はマーシアに案内してもらって屋敷の中も探検してみた。
スナイドレー教授と私の部屋がある3階はともかく、ゲストルームなどがある2階はほとんど使われていないそうで、家具に白いカバーがかかっている部屋が多い。でも不思議と埃っぽくはない。
「使用人の数が少ないので、閉め切っている部屋が多いのです。」
とマーシアは説明してくれる。
「それにしては、埃っぽくありませんね?」
「ああ、この屋敷には掃除の魔術具がございます。部屋の埃を吸い取るもの、窓を拭きあげるもの、家具を磨くなどの魔術具です。各部屋に人が持って行ってスイッチを入れなければなりませんが、大した労力ではございません。」
興味を持って、魔術具を見せてもらえないか聞いたら、ちょうど掃除している部屋があるということで、動いているのを見せてもらえた。確かに、すごい便利だ。
「これらの魔術具が市井に流通したら、主婦は助かりますね?」
「そうでございますね。でも、たぶん、無理でしょう。これらの魔術具はフィロス様がお作りになられたものですし。」
「え?教授が?」
「学生時代にお作りになりました。リディアナ様がいらしたとき、何かこの屋敷は埃っぽいのね。と、つぶやかれたことがありまして。」
また、お母様がらみか…。
「母はどうしてこんなに大事にされていたのに、教授と一緒にならなかったのかしら…。」
マーシアは困ったような笑顔を見せた。
「わたくしにはわかりかねますが…。でも、学院へ入る前はとても仲が良いお二人だったのですよ。お兄様、お兄様、とリディアナ様がフィロス様に甘えておられました。」
そういえば、お母様の日記も教授のことはお兄様と書いてあったっけ。