リディアナの部屋で
私は、母リディアナのために整えられた部屋で休んだ。
浴室、クローゼットルーム、居間、ベッドルームが一続きになっている。
目にやさしい白壁にピンク色の小花と若葉が散った装飾が美しい。
カーテンやベッドは、淡いピンク色で統一されている。私くらいの年代の少女にふさわしい明るく可愛らしい部屋だった。
どれだけ、スナイドレー教授が母を大事に思っていたか、心が痛くなる。
「母もこの部屋に滞在したことがあるのですか?」
マーシアに聞いてみたら、入ってもくれなかったと答えられた。
「リディアナ様は一度だけ、夏休みにこの邸に来られたことがございます。ですが、フィロス様の隣の部屋は嫌だと駄々をこねられまして。」
「この部屋の隣が教授の部屋、なのですか?」
「そうでございますよ。…あ、でも、ご安心くださいませ。こちらの部屋とフィロス様の部屋はつながっておりませんから。」
「そうなのですね。では、母はどこに泊まったのでしょう?」
「この屋敷は別棟にゲストルームがございます。そちらにお泊りでした。」
マーシアはため息をつく。
「お嬢様、使用人の立場で不躾とは存じますが…。その、フィロス様とのご婚約はお嫌では、ないのですよね?」
「はい。もちろんです。」
マーシアの顔が明るくなる。
「ああ、ありがとうございます!安心いたしました!…すみません。もう、お嬢様はお休みにならなければ!」
寝巻に着替えるまでマーシアにかいがいしく世話をされ、ベッドに横になる。
「お休みなさいませ。何か御用がありましたら、ナイトテーブルの上のベルを鳴らしてくださいませ。」
1人になって、私は、ほぅっとため息をつく。
なんだか、夢の中にいるようだ。
無理やり嫁がされそうになった絶望と、殺されるかと思った痛み。
そこに突然あらわれたスナイドレー教授。
気づいたら痛みが無くなっていて、今まで着たことがないきれいなドレスを着せられて、おいしい食事。やさしい使用人。
暖かくて肌触りの良い寝具。
「明日の朝になったら全部消えて夢でした。でなければ、いいな…。」