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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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冬休み:侯爵家にて



 冬休み、ダングレー侯爵家に戻ってきた。

おばあ様は屋敷に戻ってこられていたが、私の顔を見たら具合が悪くなるから、挨拶に来るな。と、命令していると、数年ぶりに会ったベッキーに言い渡された。

自室に入ると、メイドが待っていて、

「奥様から、この屋敷では、いつも通り、喪服を着るように、と命令されています。」

と、無理やり、サピエンツィアで買った青いワンピースをはぎ取られ、ベッドの上に広げてある喪服を着るように、言い渡された。


 相変わらず、古い型の、少しかび臭い、喪服。

 魔術学院では3食しっかり食べられたので、私の体は成長している。

それを見越して、大人のサイズの喪服になっていたけれど、少しきつい。


「学院に戻れるようになるまで、15日か。…4年生の授業の予習をしていたら、あっという間に過ぎるわよね。うん。大丈夫。」


そんなことより、スナイドレー教授、本当に、ここに来てくれるんだろうか。


「でも、夢、みたい…。」


あの後、帰省する前にもう一度会いたかったけれど、どこにも見つからず。

学院長にも挨拶したかったけれど、ソル塔に行って呼び掛けても、会えなかった。




 帰省してから2日後。

階下が、かなりざわついていたので、窓から外を見たら、立派な馬車が止まっていた。

「スナイドレー教授?」


 でも、馬車のドアについている家紋を見て、違う、と判断する。

学院で受けさせられる貴族マナーの講義には、家紋の授業もある。

スナイドレー教授の公爵家の家紋は、2匹の蛇がバラの盾を囲んでいる紋章だ。

この家紋は、獅子が蔦に囲まれている。

確か…。

モントレー公爵だ!

スナイドレー教授で、頭がいっぱいになって、すっかり忘れていた。

リチャード・モントレーだ。

外堀から埋めるって宣言されていたんだった!


「ど、どうしよう。おばあ様は断ると思うけれど。」


 呼びに来られても困らないように、喪服の皺をできるだけ伸ばして待っていたけれど、誰も来ない。やがて、窓の外で物音がしたので、外を覗いてみると、馬車が屋敷から出ていくところだった。


「あ、帰ったんだ。」


 リチャードに会えなかったことを少し残念に思うと同時に、ホッとする。

でも、どうなったのかわからず、不安だ。


 突然、自室の扉が、バン!と、乱暴に開け放され、おばあ様が真っ青な顔をして、ずかずかと入ってくるなり、私の頬が木でできた鞭でなぐりつけられる。

鋭い痛みが走り、温かいものが伝い落ちた。


「この売女!モントレー様のご子息に色目を使うなど!卑しい父親の血なのかしら!」


おばあ様は、私の肩を、顔をかばう両手の平を、うずくまった後は、背中を、滅多打ちにしてくる。


「この、売女!学院で、何をしていたのやら!まさか、男漁りをしているとは、思わなかった!」


こんな力が、年老いた女性のどこにあるのかというくらい、鞭が、私の上に降り注ぎ、やがて、ばきっ、という音がして、鞭が折れる。


「奥様!もうおやめください。そんなに興奮されては、お体に触ります!」


ベッキーがおばあ様の肩を抱いて、後ろに引き戻す。

息を切らしたおばあ様は、折れた鞭を私に投げつけ、言い放つ。

「モントレー様には婚約の申し出を断りました。お前にはすでに許婚がいる。とね。」

「いいな、ずけ?」


 私は初めて聞いたので、びっくりして顔を上げる。


「ええ。学院を卒業したら、ガレー子爵のところに、お前をやります。」


それだけ言い切ると、おばあ様は荒々しく出ていき、扉が閉められ、ガチャンと、ご丁寧に閂がおりる音がした。


「ガレー子爵?」


聞いたことが無い。誰?

私は、血だらけの手で、クリスタルのネックレスをとりだし、

「ビビリオテーション!」

と叫ぶ。


 図書室(メイ・パラディース)の、キャレルのそばで、

「現在、3253年12月時点での、ガレー子爵のことが書いてある本!」

と大声で叫べば、主に雑誌が、机に積みあがっていく。


次から次へと読んでいった私は頭をかかえて、うめいた。

「ひどすぎる…。」


 ガレー子爵は現在、48歳。魔力はない。若いころから放蕩してきたので、財産も食いつぶし、首都ランズに小さな屋敷を持っているだけ。子供はいない。ギャンブルと女遊びが趣味で、一度若い頃に結婚したが、夫人は早逝。ゴシップ雑誌では逃げようとした夫人を子爵が毒殺したのではないかという記事まであった。


「おばあ様は、私が不幸になることを、期待しているんだ…。」


嫌われているのはわかっていたけれど、そこまで憎まれていたことに、気付かなかった。


「学院を卒業したら、と言ってた。学院を卒業したらもともと、ここに戻るつもりはなかったし。なんとか逃げられると思うけれど。」


全身が鉄臭い。

血まみれになっているのだから、しょうがない。

治癒魔術を自分にかけることはできるけれど、1日もしないで、傷が無くなっていたら、おばあ様は怒って、もっとひどく折檻するだろう。

「血止め、くらいかしら、治癒魔術かけても…。」



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