スナイドレー教授の想い
スナイドレー教授は、魔獣を倒した日以来、魔獣を持ち込んだ人間を調査していた。
ここ数年、ずっと調査している、例の一派の動きが大きくなり、学生にまで手を伸ばされている。
そのおかげで、学生は隠すのが下手だから、見つけやすくもなった。
リュシュリュウ・ライドレーと、ダニエル・クックレー、アンドリュー・ドメスレーが、毒されていることは、あっさりとわかった。
3人とも隠そうとしていなかったからだ。
彼らから目を離さないようにしていたところ、首謀者が「閣下」と呼ばれていることがわかり、その呼称から、かなり高位の貴族と推察。
その調査に、首都ランズだけでなく、国境付近の街まで足を延ばしたら、思ったより時間がかかって、2か月近く学院に戻れなかった。
幹部とおぼしき数人を絞り込めたため、彼は学院長に今後の進め方を相談すべく、学院へ戻った。それが、明日から長期休暇という今日。
学院長室へ行くためにホールを横切っていた際、女生徒達のおしゃべりが突然、耳に入り、彼は思わず、足を止める。
「許せませんわ!モントレー様、ダングレーなぞに、プレゼントを渡していましたのよ!」
「ええ、ええ、わたくしも、ジェニファーが、サファイア、とかなんとか、話をしてましたのを耳にしましたわ!」
「モントレー様、だまされているのですわ!きっと。あんな根暗な女が好きなんて、ありえませんわ!」
他にも何か噂しているようだけれど、スナイドレー教授の耳には入らない。
彼は入ってきたばかりのホールから、外に出る。
モントレーが、彼女を?
ずきりと、心の奥が痛んだ。
それを認めたくなくて、彼はつぶやく。
「彼女が誰と付き合おうと、私には関係ない、はずだ。」
足早に、魔獣が出た湖に向かう。
向かった理由は、自分でもわからない。引き寄せられるように、足が向いてしまったのだ。
湖には、ソフィア・ダングレーが、いた。
2か月、学院から離れていた間、あえて思い出さないようにしていた、その姿。
振り返って、一瞬、うれしそうな顔を見せて、あわててまじめな顔に戻った彼女。
それを見たら、限界だった。
思い出す。あの日、包まれた、優しさと、温かさを。
すっかり忘れていた、安らぎを。
「ウェントゥス・サーナーティーウス。癒しの風よ、あの方に、安らぎの祝福を…。」
彼女の、想いのこもった、声を…。
彼女を誰にも渡したくない。
今度こそ、失いたくない、と。