入寮
黒光りする細かな模様が彫り込まれた重厚な扉の前に、背の高い、金髪を頭頂に固く団子状にまとめ、モノクル越しの碧眼から鋭い視線を向けている50代くらいの女性が立っている。
「そこの新入生。名前は?」
「ソフィア・ダングレーです。」
女性はうなずいた。
「ようこそ、ダングレー。私は、アンナ・オバレー教授。この学院の副学院長で、担当している科目は歴史学と魔法陣。共に学べるのを楽しみにしています。」
オバレー教授は、ソフィアについてくるようにうながす。
彼女が扉に軽く触れると、扉が内側に音もなく開いていく。
玄関ホールで9匹の黒狼が出迎えていた。
「狼!?」
思わず、私は後ずさってしまったけれど、オバレー教授は意に介せず、
「ダングレー。貴女の寮室はステラの201号室です。…ステラ。案内を!」
すっと、1匹の狼がソフィアの前に出てくる。
目の色が白青で、星の輝きを連想させる。
「我についてくるがよい、ダングレー。」
「ステラが、あなたを寮室に案内します。今日はそのまま、寮室で休みなさい。明日、学院について説明します。入学式は5日後の10時です。」
「5日後?」
「新入生をあちこちへ迎えに行くのに、行ける者が少ないので、数日かかるのですよ。」
…だから、グレーさんは、すぐいなくなっちゃったんだ。
他の新入生を迎えに行ったんだろう。大変そうだ。
「わかりました。オバレー教授。教えていただき、ありがとうございました。」
「では、また明日。」
黒狼が音もなく歩いていく後ろを、速足で追う。
「この学院は広い。だが、寮室だけは一番最初に覚えよ。」
黒狼は振り返りもせず、独り言のようにつぶやく。
「外から見たときに尖塔が見えただろう?
尖塔が、寮室や教授たちの居室になっている。」
「尖塔は全部で9塔ある。」
「ソル、ルーナ、ステラ、ルクス、テネブラエ、アクア、イグニス、テラ、ヴェントゥスの9塔だ。」
「それぞれの塔のてっぺんに光り輝く石が埋め込まれているだろう?
ソルは真紅。ルーナは金。ステラは白。ルクスは黄。テネブラエは紫。アクアは青。イグニスは赤。テラは茶。ヴェントゥスは緑。」
「学院長が住むのは、ソル。副学院長は、ルーナだ。この2つは目立つだろう?」
確かに他の塔よりも光が大きく、燃えているように見える。
「ほかの教師と学生の住む塔は、塔が選ぶ。」
「塔は7階建てで、学生は3階以下、教師は4階以上に住んでいる。」
「ほら、ここが、ステラだ。201号室。2階まで登れ。ドアに部屋番号が彫ってある。」
黒狼は白青の目を細めて、私をじっと見る。
「ステラに選ばれた新入生よ。我を失望させるなよ。」
入学式まであと5日。