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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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森の湖にて2



 湖の岸辺で苔むした岩に2人で座り、スナイドレー教授が私の片手をそっと握ったまま、湖に視線を向けて、ぽつぽつと話をしてくれた。


 学生時代から、ずっと今も、ステラ塔に住んでいる。

 学生時代は、ステラ塔に、私の父、アクシアス・プラエフクトウスもいた。

 今、ステラ塔にいるのは彼と私の2人しかいない。

 アクシアスとは何度も、学院に内緒で決闘をして、勝負がつかなかった。

 私の優秀さは、たぶん、アクシアスに似たのだろう。

 なぜなら、リディアナはAクラスに在学し続けたけれど、ぎりぎりの成績だったから。

 でも、治癒魔術だけは、ずば抜けていた。

 それなのに、なぜ、私は彼女が治癒師になりたいという希望を許さなかったのだろう?


「私は、意地になっていたのかもしれない。」

ぽつりと、スナイドレー教授はつぶやいた。

「リディアナを愛していると、思い込んでいただけなのかも、しれない。リディアナを幸せにできるのは自分だけだと、うぬぼれていた。でも、リディアナ自身をちゃんと見ていなかったんだ、と今は、思う。」


「リディアナは、幸せ、だったんだろうか…?」

「わたくしが覚えている母はいつも笑っていました。小さな治癒院は多くの人が来ていて、母が慕われていることを、子供心に誇らしく思っていました。…そうですね、きっと、母は幸せだったと、思います。」

「そうか…。それでも、あの時に、彼女の手を離していれば、リディアナは死なずに、今頃、フォルティスで元気に笑っていられたかもしれないのだな…。」


スナイドレー教授は私の顔をのぞきこんだ。

「約束、しよう。リディアナは、私が君と一緒になることを望まないかもしれないけれど、でも、きっと、君を幸せにして…、いつか、あの世で、リディアナと再会した時は、一発なぐられるくらいで済むようにする。と。」

「お母様は教授をなぐったこと、あるのですか?」

「何度もね。彼女は本当にお転婆で、気が強い子だったからね。」


スナイドレー教授が、微笑む。


「笑った!」

「え?」

「あ、ごめんなさい。教授の笑顔、初めて見た、と思って。見られて、うれしいです。」

「笑った…、そうか…。ありがとう、ソフィア。」


ずっと2人で肩を寄せ合って湖を見ていたら、突然、鳥が飛び立つ音がした。

見上げれば、何羽もの鳥が列を作って、ねぐらに帰っていく。


「すまない、夕方になってしまった。おなかが、すいただろう?」

「おなかが、すいたことも忘れてました。」

スナイドレー教授が、また、微笑む。

「すぐに、思い出すだろう…。寮室の近くまで送る。」


森をもう少しで抜ける、というところで、スナイドレー教授は立ち止まる。


「今年いっぱいは、やることが多くて時間が取れない。でも、来年になったら、冬休みが終わる前に、ダングレー侯爵家に伺おう。正式に婚約をお願いするために。」


顔が熱くなる。


「ソフィア?それで、良いかな?」

「…はい。お待ちしています。」

「ありがとう。さ、行きなさい。私はまだ、やることがある。」

「あの、お気をつけて。」

「…ありがとう。」



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