両親のこと
寮に戻らず、ソル塔に足が向く。
入り口が相変わらず見つからない。
しかたなく、
「ハッカレー学院長ーーー!」
思い切って、大きな声で呼びかけてみた。
「なんじゃ、ダングレーか。」
上からいきなり声が降ってきた。
「入んなさい。」
突然、目の前の壁がぱっくり開く。
どんな仕組みになっているのか気になるけれど、一歩、塔に足を踏み入れたら、また学院長の居間だった。
窓から見える光景は相変わらず、高所に居ることに気付かされる。
「学院長に教えてほしいことがあって、来ました。」
「わしに答えられることであれば?」
「父…いえ、アクシアス・プラエフクトウスと、リディアナ・ダングレー、そして、スナイドレー教授について、知っていることを教えてください。」
学院長は肩をすくめて、ため息をついた。
「スナイドレーから、何か聞いたのかね?」
「はい。母はスナイドレー教授の許婚だったとか?」
学院長は軽くうなずき、話をしてくれる。
「アクシアスは3年生で転入してきた。これは、異例中の異例。初めて。
我が国では、ありえない。
彼は隣国フォルティスの大神官の家の出身なのだが、この血筋は数代に1人、魔力を持つ者が生まれるのだそうだ。アクシアスが本校に転入依頼を出してきたとき、王宮はちょっとした混乱に陥った。なぜならば、外国人には魔力持ちがいないという常識が覆ってしまうから。彼の魔力を調べる必要もあり、特例としてアクシアスの転入が認められた。」
「アクシアスは、ずば抜けて優秀だった。卒業まで学年1位を通したよ。性格も明るく、さばさばしていたので、彼の周りにはたくさん人が集まっていた。その中にリディアナもいた。」
「リディアナもまあ優秀で、ずっとAクラスに在籍していたから、アクシアスと親しくなるのにそれほど時間はかからなかったようだ。わしはアクシアスを国王の命令で監視、調査していたので、リディアナと一緒にいることが多いと気づいておったが、仲の良いただの友達だと思い込んでおった。」
「そして、卒業直前に、リディアナが妊娠していることがわかり、それを知ったフィロスの父先代スナイドレー公爵が激怒し、婚約は破棄。
…わしはこの時に、リディアナとフィロスが許婚だったことを初めて知った。
ダングレー侯爵家もリディアナを勘当。
プラエフクトウス家からも、神官として倫理にもとることした、という理由で、アクシアスも勘当された。」
「本来なら、成績優秀な生徒は国が勤め先を決める。しかし、プラエフクトウスは外国人で我が国の王宮で勤めさせるわけにはいかなかった。だから、学院卒業後、2人がどのように暮らしていたか、そこまで、わしは知らなんだ。」
学院長じっと私を見る。
「ただ、実はリディアナから日記を預かっている。」
「え?」
学院長は部屋から出ていき、まもなく、小さな木箱を持って戻ってきた。
「リディアナが卒業するとき、わしに預けていったのがこの日記だ。いつか、おなかの中の子供が学院に入るだろう。その時に、わしが必要と判断したら渡してほしいと。」