学院長の口止め
ステラ塔の近くまで戻ってくると、なぜか学院長が立っていて、ソル塔まで連れていかれた。
「怪我はしていないか?ダングレー?」
どうやら、学院長は魔獣と戦ったことをご存じのようだ。
「はい、打ち身くらいかと、思います。」
吹き飛ばされて背中を木に打ち付けたことを話したところ、学院長は治癒魔術で背中を、癒してくれた。
「すまんのう。魔獣が1匹、持ち込まれたことはわかっておったのじゃが、まさか、生徒を怪我させるとは思わなんだ。」
「いいえ、スナイドレー教授が助けてくださいましたから…。」
「教授には調査を頼んでいたからのう。間に合って良かった。
…ところで、ダングレー。わしからの頼みなのじゃが、魔獣のことは誰にも話さないと、約束してくれないかね?」
私を待っていたのは、口止めが目的だったようだ。
「それは、構いませんけれど…。」
「この国には、今、いろいろと厄介なことがあっての…。」
その時、私の脳裏に何かがちらっと、よぎった。
「もしかして、ライドレー先輩と、関係がありますか?」
学院長の顔つきが険しくなる。
「ライドレー?何か、聞いたのか?彼との、関係は?」
彼から聞いた、魔術庁の裏の人が関わっているのかもという話をしようとしたら、喉が締め付けられ、声が出なくなった。
そうか、話せないんだ、本当に。
「えっと、ちょっと、隣国と揉めているという話を聞いていて。えっと、そうそう、彼からは交際を申し込まれています?」
「やめておきなさい。」
きっぱりと、学院長が私に命じる。
「彼は、危険だ。」
「それは?」
「詳細は教えられない。…それとも、君は、彼が好きなのかね?」
首を振る。
「尊敬している先輩なだけです。」
「学院内で、先輩後輩として付き合う分には問題ない。だが、それ以上の関係は危険だ。君は彼の申し出を受けるつもりかね?」
「いいえ、断ろうと思っています。」
「それが、良い。」
学院長は、長い溜息をつくと、いつもの顔に戻る。
「この国は、今、政治的に少し、不安定になっているけれど、学生である君の関与するところではない。大人の問題だ。君は卒業まで学業に専念しなさい。良いね?」
政治的な問題…、魔獣がそれにどう絡んでくるのだろう。
でも、学院長は何も話してくれるつもりはなさそうだ。
私も余計なことに首をつっこみたくない。
学院長に承諾の意を示せばすぐに解放されて自室に戻ることができた。