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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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アムールの日に向けて2



 食料品店を出た後、ジェニファーは婚約者のケンドル先輩と約束があるから、と別行動になり、エリザベスも銀行に用事があると言うので、別れた。


 私は、いつもの癖で、書店にぶらっと立ち寄る。

図書室(メイ・パラディース)があるけれど、書店で並んでいる本を見るのも、こんなのがあるのね、という新鮮な驚きが多くて、楽しいのだ。

また、友人や教授達に本の題名を聞かれたり、貸して、と言われることが増えてきたため、学院に来てからは、本を自分で購入することが増えてきている。


 特に目的もなく書棚を眺めていたら気になる題名が目に飛び込んできた。

「薬膳菓子の作り方」


「薬膳?」

その本を手に取って、ざっと目を通してみる。

「疲れ目に良いお菓子」「体力を回復するお菓子」など、いろいろな効能がついている、お菓子のレシピ本だ。

その中に「心を穏やかに整えるお菓子」というレシピがあった。


「心を、穏やかに…。」


 スナイドレー教授の、いつも厳しい顔を思い出す。

遠くから見かけた時の教授は目に憎悪の光こそないけれど、人を寄せ付けない冷たい目は変わらず、全身から漂うオーラは近づくだけで周囲が凍りつくかのように峻烈だ。

彼の得意な属性は氷じゃないかという噂まであるくらい。

そんなスナイドレー教授には生徒達も用事が無い限り、なるべく近づかないようにしている。

当然、親しく誰かと話しているのを見たこともない。


 スナイドレー教授はなぜあれほどに、人を拒絶するようになったのだろう。

15年前に、何があったのだろう。

15年経っても傷が癒えないのは悲しすぎる。

私は、スナイドレー教授に何ができるだろう…。


そこまで考えて、赤面する。


「私ってば、何を考えているの。スナイドレー教授には、嫌われているのに。」


それでも。

私は、「薬膳菓子の作り方」をレジに持って行った。





 明日の土曜日はアムールの日という前日の金曜日の夜。


「さて。作りますか。」


 薬草を数種類、丁寧に刻む。

作りたいお菓子は思ったよりも珍しい材料を多く使っていた。

この数種類の薬草は街に売っていなかったので、放課後、学院内の森の中を歩き回って、自分で採取した。

学院内の森は薬草の宝庫で、根気よく探せばまれに珍しい薬草にも出会える。

街で買うより採取した方が品質も良いので、以前から、散策のついでによく薬草を手に入れていたのが功を奏した。


刻んだ薬草を錬金鍋に入れる。


「ここに、月見草のしずくと、星彩花のジャムと、ドラゴンのうろこと…。」


そう。

「薬膳菓子の作り方」は、魔術師が薬学魔術で作るお菓子のレシピだった。


 材料には、ドラゴンのうろこみたいに売っているものもあるけれど、ほとんどが、薬学魔術で作らなければならないものばかり。

幸い、母が治癒師で、毎日のように錬金鍋を使っていたこともあって、子供の時から薬学魔術には興味があり、図書室(メイ・パラディース)で関連する本を読みまくり、知識だけは豊富に頭の中に仕舞われていた。

そんな私だったから、3年生になって実際に作れるようになったら、それがとてもうれしくて、以前から作ってみたいと思っていたものを片端から調合していった。

母を思い出しながら調合するのがとても楽しくて、すっかり嵌まってしまい、土曜日の午後などに外出予定が無ければ、調合ばかりやっている。

そのため、今回必要な材料が全て揃っていた。


だから、今朝、採取した薬草と作り置いておいた調合品を使う。

そうでなかったらこんな短期間で、この「心を穏やかに整えるお菓子」は作れない。


「材料は全部、錬金鍋の中に入れた。で、最高品質にするには54回かき混ぜるのね。」


 ちらっと鍋の中を見る。

この量からすると普通に54回では混ざらない。

時間短縮を使うべきだろう。


時の跳躍(テンプス・フギト)


 鍋から緑の光がほとばしる。


54回、間違いないように、かき混ぜる。

スナイドレー教授の心が少しでも安らぐことを祈りながら。


54回かき混ぜ終われば、真っ白に輝くパン生地みたいな固まりができた。


「これを一口大に成型して、オーブンで焼く…。クッキーかな、できるのは?」


 薬学魔術では材料に火を通す調合もあるので、小さいながら、オーブンも部屋にある。

一口大の丸い形に生地を成型して、オーブンで焼く。

焼きあがったクッキーは焼いても焦げ目が無くて真っ白のまま。

しかも、うっすらと透明な膜がかかっているようにきらきら光る。


「お菓子とは思えないほど、きれい…。」


1個つまみあげ、味見にために口に含む。


ほろりと崩れたお菓子は、すーっと、そのまま舌の上で溶ける。

やさしい甘み。

どこか、懐かしい味だけれど、何の味だろう…。

いろいろと気を張っていたのが、ゆるゆると溶けていく。


「うん…。これなら、きっと、レシピに書いてある通り、心を穏やかにしてくれそう。」





ソフィアが作ったのは、お菓子か、やや、疑問は残ります。

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