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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
45/172

アムールの日に向けて1



 その後の授業も毎日、懲りずにリチャードが隣に座ってきた。

でも、それだけ。

彼は何もしない。

実習の時に必要なものを手渡してくれるなど、ちょこちょこ世話を焼いてくれる以外は、仲の良いクラスメートの一線を越えてくることはなく、意外と、居心地が悪くないことに驚いている。

…だからと言って、友人以上の線を越えるのが怖い。


 リチャードが私に構うようになってから、何人かの女生徒から嫌味を言われるようになった。リチャードは、本当にモテるのだ。

でも、それらの女生徒達とはクラスが違うし、食事などはいつも、エリザベスとジェニファーが一緒だったので、何かひどいことをされることは、無かった。

せいぜい、廊下を歩いているとき、聞こえるように悪口を言われたり、足をひっかけられて転びそうになったりするくらいで。



 10月のある日曜日、エリザベス、ジェニファーと街に買い物に出かけたら、ジェニファーからまず食料品店に行きたい。と言われる。


「食料品店?めずらしいね。」

と、首をかしげると、

「来週の土曜日、10月30日は、アムールの日でしょ!」

と突っ込まれた。


好きな男性がいない私には関係がないので、忘れていた。


 アムールの日とは、女性が、好意を持つ男性にお菓子をプレゼントする日。

 ランドール建国のドラコ王の妃であるアムールが、まだ妃になる前の若かりし時、自分が焼いたクッキーをドラコ王に初めてプレゼントし、そのクッキーのおいしさに感激したドラコ王が彼女をくどきはじめた、それが、10月30日、という伝説から始まっている。


 男性からのお返しは12月24日のランドール建国記念日。通称、建国祭。それは、ドラコ王とアムール妃の結婚式の日でもある。

つまり、12月24日にお菓子を贈った男性からお返しがもらえたら、両想いということ。

ただし、学院はその日すでに冬休みで相手に会えないから、お返しは冬休みに入る前日の12月15日というのが、学生たちにとって暗黙のルールになっている。

 そうそう、思い出した。

昨年はその時期、学院中で、お菓子やら花束やらが飛び交ってたっけ。


「ジェニは、婚約者がいるものねえ。何を作るの?」

「クランベリージャムをはさんだクッキーにしようと思って。クランベリーは実家から、ケンドル農園のを取り寄せたので、あとは小麦粉と砂糖に、…バターを買わないと。」

「リズは?誰かに、あげるの?」

「そうですわねえ。どうしましょう。」

「え?好きな方がいるの?」

「許婚なら、いますわ。」

「ええー!!」


ジェニファーと私はびっくりして、エリザベスに詰め寄ってしまった。


「そんなに驚かなくっても良いではありません?わたくし、八家の一員ですもの。生まれたときから、許婚が決まっていましてよ?」

「リズは、それでいいの?」

 心配になって、聞いてしまう。

「ええ。幸い、相手の方を、わたくしは好きですので。お兄様に対するような穏やかな気持ちではありますが、決して、無理強いはさせられていませんわ。」

「…そうよね。魔術師になる以上、意に染まぬ結婚は避けられるはずよね?」

 と、ジェニファーも、うなずく。


「どなたか、聞いてもいいのかしら?」

遠慮がちに問いかける。

「オークレー公爵ですわ。」

「げ!」

ジェニファーが変な声をだす。

「オークレー公爵というと、宰相の?」

「ええ、宰相のオークレー様ですわ。」

「すごすぎて、何も言えない…。」


ジェニファーは感心している。さすが、リズ。と、ぶつぶつ言っている。

2人が、少しうらやましくなった。


「ソフィは?お菓子を、贈りませんの?」

「贈る人が、いません。」

「リュシューと、リチャードが、泣きますね…。」



ランドール国には、義理チョコの文化が根付いていません。家族の中で、贈り合うことはありますが。


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