リチャードの接近
リチャードとはほとんどの授業で同じクラスだけれど、人気者の彼はいつも誰かに囲まれていて、私とは離れた席で授業を受けている。
…が、今日は、どういうことだろう。
いつも通り、エリザベスの隣に座っていたのに、そのエリザベスと反対側に、リチャードが、どかっと座ってきた。
私はエリザベスとリチャードに挟まれて座っている。しかも、ぴったりくっつかれている気がする。
講義室の机は5人掛けの長机なので、3人で掛けていても別に問題はないけれど、今までエリザベスと2人で座っていたから、落ち着かない。
そもそも、Aクラスは人数が少ないので、1人で1つの机を占有している生徒が多数だ。
「り、リチャード、悪いけど、もう少し、離れて座ってくださいません?」
しかたなく、声をかけると、彼はニコッと笑って
「気にしないで。好きな子の隣に座りたいだけだから。」
と、しゃあしゃあと言ってきた。
エリザベスがそれを聞き、びっくりして目をぱちぱちさせている。
「り、リズ!私と席を変わって!」
「いやよ?」
エリザベスにも、にっこりされてしまう。
「わたくし、モントレー公爵子息の隣に座って、敵認定されたくないもの。」
「リズぅ…。」
「教授がいらしたわよ?」
結局、その日はどの講義でも、エリザベスとリチャードに挟まれて授業を受けた。
途中、エリザベスが私から離れて(逃げて)座ろうとしたけれど、そこはエリザベスの腕にがっちりしがみついて、それだけはあきらめてもらった。
夕食の席で、エリザベスがジェニファーにその状況を楽しそうに話している。
「えー、ソフィ、いつの間にモントレーさんと仲良しになったの?」
「なっていませんってば…。」
ぐったりしてしまって、食事も進んでいない。
「ソフィは、もてますわねえ。リュシューとリチャード?うらやましいですわあ。」
エリザベスが、うっとりと言っている。
「うらやましくないわ!変わってほしいですっ、リズぅ。」
「あの二人は敵認定されたら、怖いですもの、いやですわ。」
「敵認定されると怖いって、どういうこと?」
ジェニファーが不思議そうに聞く。
「あの二人は、貴族は貴族でも、トップの八家の人間なのですわ。」
「八家?」
「貴族の中にも階級がありますの。国王がトップで、二番目が4大公爵。3番目に4大侯爵。これが八家。その下に、一般に知られている、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士が続きますのよ。」
「一般の貴族は八家に逆らえないってこと?」
「そうなりますわね。」
「リズだって、八家でしょう。」
ぼそっと言う。
「ええ?本当、リズ?」
「父は確かにそうですが…。わたくしは成人したら、アークレーの家を出ますから、八家とは関係なくなりますわ。八家のどなたかに嫁ぐ予定もありませんし。」
リズは、にっこりと私に笑いかける。
「ソフィは、八家に嫁ぎそうですもんね?、ライドレー侯爵家か、モントレー公爵家か。」
「ない!絶対にない!」
あわてて、反論する。
ジェニファーが不思議そうに聞いてくる。
「リュシュー先輩も、モントレーさんも、相手としては、優良物件だと思うけれど?」
「…どちらも良い方よ。でも、そういう相手として見れないんだもの。」
「ほかに好きな人がいるの?」
喉に食事を詰まらせそうになった。
「…うっ。いるわけないでしょう!」