気づいた想い
明日から、後期授業が始まるというのに、疲労困憊して寮のベッドにひっくり返っていた。
リュシュー先輩。
魔術師の国にするという理想に賛同できたなら、もしかしたら、付き合っていたかもしれない。とても、優しくて頼りになる先輩だから。
でも、彼の思想、魔術師は魔術師だけで生きていくという考え方は、私とは相いれない。
恐らく、尊敬できる先輩としてしか、これからも見られないだろう。
ため息をつく。
それに反して。リチャード・モントレー。
初めは、単純な戦闘バカかと思ったけれど、そうではなかった。
もちろん、戦闘魔術が一番好きと公言してはばからず、剣以外にも槍、短剣、弓など、様々な武器をバランスよく練習し、どの武器も楽々使っている。
学年一の実力と言われているけれど、学院一ではないかとひそかに思っている。
明るく誰にでも公平に接するので、男女、クラス問わず、人気者。
特に女性からモテる。上級生下級生問わず、キャーキャー言われて、いつも大勢に囲まれている。
…そんな人気者が、なぜ、私を?
ぼんやりと天井を見つめる。
…つきあってみる?リチャードと?
彼となら、楽しい交際になりそうな気は…する。
その時、突然、頭の中に浮かんだのは、鋭い、冷たい黒い目、だった。
フィロス・スナイドレー教授。
がばっと跳ね起きる。
「なんで、なんで、ここで、スナイドレー教授が浮かぶの?」
翌日の放課後、ステラ塔に戻ってきたら、リュシュー先輩が待っていた。
「ごめん。少し、時間くれないかな。」
塔の周りの林の中をゆっくり歩く。
「そういえば、夏休みに1度、いらしていただきましたが、別荘へ行かれたのではないのですか。」
「1度?…いや、何度も行ったけれど、君に取り継いでもらえなかったんだ。」
「え?何度も、いらしてたのですか?」
「気にしないで。確かに、未婚の貴族令嬢を保護者の許可を得ないで連れ出そうとする方が悪いんだから。」
急に居心地の悪さを感じて、黙り込む。
「ねえ、ソフィア。夏休みの間、僕のこと、考えてくれた?」
「え?」
「僕は君が好きだ。夏休み中、会えなくて寂しかった。授業が始まって、君にまた会えて、うれしいよ。君は?」
「私は…。ごめんなさい。先輩のことは尊敬しているんですけど、その…。」
「好きな人が、他にいるの?」
「え?」
「たとえば、リチャード・モントレーとか?」
リチャード?
「いえ!違います!彼とは、なんでもありません!好きな人も、いません!」
その時、私は、胸がずきりと、痛むのを感じた。
…スキナヒトモ、イマセン?
「諦めが悪いやつかもしれないけど、僕はやっぱり、君を諦められない。モントレーにも、そう、伝えてある。また、誘わせてもらうよ?」
リュシュー先輩は、なんだかんだ言ってもやはり、優しい。私に強制するようなことは、何もしない。
私の手を取り、そっと手の甲にキスを落とすと、私から離れていってくれた。
自室にふらふらと戻って、床にぺたんと崩れ落ちる。
好きな人、いない?
本当に?
その時、フィロス・スナイドレー教授のきつい顔立ちを思い出していた。
「私…。スナイドレー教授が、好き?」
口に出したら、ふいに、涙がぽろぽろこぼれてきた。
「なんで?」
嫌われているのが、わかっているのに。
教授のことなんか、何も知らないのに。