最高品質のポーション3
薬学魔術は7時限目と8時限目、つまり1日の最後の授業に当たっていた。
今日は講義だけで終わりだと、7時限目が終わるとスナイドレー教授は退室していった。
「8時限目、空きましたわね、ティーサロンでも行きます?」
エリザベスに声をかけてもらったけれど
「ごめんなさい、ちょっと、スナイドレー教授に用事があって。」
「あら、残念ですわ。では、また夕食の時に。」
薬学教室の隣にある、スナイドレー教授の執務室のドアをノックする。
「…入れ。」
承諾されたことを確認して、ドアをあける。
「失礼します。」
本棚の前で本を片付けていたスナイドレー教授が振り返り、私を見て険しい顔になる。
「あの、先週は申し訳ありませんでした。」
まず、頭を下げて謝った。
「…何のことだ?」
「頭痛薬のポーションで、点数が低いのに納得できず、不満な顔をしてしまいました。それで、あの、作り直してきたので、再度の採点をお願いします。」
スナイドレー教授があっけにとられたような顔をする。
その一瞬だけ目から憎悪が消えた。
ほんの一瞬で、また、きつい目に戻ってしまったけれど。
私は昨夜作ったポーションを、教授の机にことんと置く。
ちらっとそれを見た教授の目が大きく見開かれ、さっと瓶をひったくるように取った。
光にかざしながら、目を細め、検分している。
「誰に、作ってもらった。」
低い声が響く。
「え?」
「お前にこれが作れるとは思えない。誰に、作ってもらった。」
「あの、いえ。それ、わたくしが作りました。」
スナイドレー教授が、くるりと私の正面に向き合う。
「嘘を言うな。これの作り方は教えていない。作れるわけが、ない。」
「参考書を調べて、あと、ライドレー先輩にアドバイスをもらったのです。」
信じてほしくて、スナイドレー教授の方に一歩、足を踏み出す。
「近づくな!」
その瞬間、スナイドレー教授から衝撃波が放たれ、私は後ろに吹き飛んでドアに体を打ち付けた。
「ライドレーに作ってもらったものを、お前が作ったと、偽申告か。卑怯者だな。
…出て行け。」
出て行け、と言われた瞬間、私は教授室から廊下にはじき出されていた。
本当に、私が作ったのに。
自分の両頬が濡れているのに気付いた。
…くやしい。
誰にも会いたくなくて、ステラ塔に向かって逃げるように走っていった。
「ずいぶんと、濃い蒼だ。頭痛薬の域を、超えている…」
スナイドレー教授は、ポーションの蓋をポンと抜き、数滴、手に垂らし、舌にのせてみる。
「これは…!」
頭痛薬どころではない。
軽度の脳の損傷も治癒する高レベルのポーションに仕上がっていた。
「これは、ライドレーには作れない…。まさか、本当に、ソフィア・ダングレーが自分で?」
スナイドレー教授は軽く頭をたたく。
「…ビジナーズラックか?」
ポーションの瓶を引き出しへ丁寧にしまいながら、彼はため息をつく。
「退官を未だに許されないのが、辛いな…。」