8家について
私は寮の自室に戻るが早いか、ベッドの上に寝ころび、痛む頭を両手で押さえていた。
魔力は遺伝して伝わるものだったのか。
突然変異ではないのか。
それにしても、魔術庁は、なんと恐ろしい場所だろう。
子供のすり替えを平気でするなんて、信じられない。すり替えできるだけの力を持っているということは、人の心を操る闇の魔力が強い人も多いのだろう。
エリザベスの家は4大侯爵家だから、実の親で間違いなさそうだけれど、ジェニファーは?どこかの貴族の子供とすり替えられているんだろう。それを知ったら、ジェニファーはどう思うだろう?絶対に言えないけど。
この情報が正しいかどうか私には調べられるだろうか。
そうだ、図書室!
私は、首元から、クリスタルのネックレスを引っ張り出す。
「ビビリオテーション!」
結論から、言おう。
知りたい情報が書かれている本は見つからなかった。
推察だけれど、この図書室に入っている本は、「一度は社会的に公開されている本」なのだと思う。
リュシュー先輩の話だと、魔術庁にある記録は、そもそも「本」ではなく「書類」であり、そのような情報を「本」として残すはずがない。
その代わり、8家について、つまり、4大公爵、4大侯爵についての本だったら、かなりの数が見つかった。
4大公爵は、モントレー、ドメスレー、スナイドレー、マジェントレー。
戦闘魔術で1度も勝てず、成績の1位と2位を争っている、リチャード・モントレーは、4大公爵だったのか。であれば、魔力が強いのもうなずける。
そして、やはり同じクラスの、好きになれない、ドメスレー。貴族主義のアンドリュー・ドメスレー。4大公爵の長男ともなれば、成績が上位なのは、納得だ。
意外なのは、フィロス・スナイドレー教授。公爵なのは知っていたが、まさか、4大公爵だとは。4大公爵の当主なら非常に多忙そうなのに、教授をやっているのはなぜだろう?マジェントレーは、現在の魔法庁長官。
ハッカレー学院長も公爵だけど、4大公爵ではなかったことが、少し意外な気がする。強大な魔力を持っているから学院長になったのだと思うのだけれど。
4大侯爵は、ライドレー、アークレー、ドットレー、エイズレー。
リュシュー先輩が、ライドレー。エリザベスが、アークレー。どちらも、魔力が高い。やはり、というべきか。
ドットレーとエイズレーは同級生の中にいなさそうだ。聞いたことがない。
それにしても、リュシュー先輩にはどうしたら、諦めてもらえるだろうか。
断ったけど、諦めないって、言われてしまったし。
ふと、また、脳裏に浮かぶのは、フィロス・スナイドレー教授の、冷たい目だ。
初回の授業で、ポーションを提出しに行った時、近くで見た時、憎悪の中に深い哀しみが潜んでいるように見えた。
…気のせいだろうか。
でも、何か救いを求めて、絶望しているような、そんな感じがしたのだ。一瞬だけど。
学院に来るまで絶対に会ったことがないはずだし、誰かと間違えて憎まれているのだろうか。そうならば、誤解を解きたい。
「授業は毎週1回あるし。まずは、良い成績を取って認めてもらうことから、始めるしかないわね。そういえば、あのポーション、最低点って言われた。どこが悪かったのかしら。調べて、もう一回作ってみましょう。」
「頭痛を治すポーションの作り方。初心者向け。ランドール語で書かれた本。」
数十冊が、キャレルの机の上に積みあがる。
結局、徹夜してしまったけれど必要な情報はわかった。
リュシュー先輩が言ったとおり、最低点は、嫌がらせではなかった。
「私の、被害妄想ってことね…。」
教科書には書いてなかったし、教授の講義にもなかった気がするけれど、頭痛を治すポーションはかき混ぜるときに、22回きっかりでないと、最高品質にはならないらしい。
「教科書にすべて書いてあるとは限らないのだし、これからは、きちんと予習していかないと。」
あとは、学校の図書館にその参考書があるかどうかのチェックも必要だ。
どうやって調べたか聞かれたときに、困る。
放課後、ともかく、22回きっかり、かき混ぜたポーションを作ってみよう。
まず、学院の図書館に行って、昨日の参考書があるか調べて。
あ、それから、調合の道具も必要か。
学院内には購買部があり、最低限、授業で使うものは買える。
必要なのは、錬金鍋とかき混ぜ棒と、ポーション用の薬品と、ポーションを入れる瓶。
ランドールの闇を知ったソフィアですが、気持ちを切り替えます。まずは、自分ができることから。