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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
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リュシューサイド:想いを諦めない



「リュシュリュウ、ソフィア・ダングレーと話をしたそうだね。どうなった?」

「閣下。申し訳ありません。断られました。」

「ふうん、そうか…。」

「でも、私は、彼女を諦める気はありません。」

「ソフィア・ダングレーの魔力が多いのは、私も聞いている。なるべく、こちらに引き込みたいと、私も思っている。」

「では…。」

「リュシュリュウに、彼女のことは任せる。しかし、焦るなよ。どこから横槍が入るか、わからぬ。我らが動いたのちに彼女をこちらに迎える方が良いのかもしれぬ。」

「動く日は、決まったのでしょうか。」

「まだだ。まだ、準備が整っておらぬ。おそらく、お前が卒業してからになるだろう。それまでは、気づかれぬように。」

「承知しました。」


 リュシュリュウは深々とお辞儀をする。

頭をあげたとき、閣下の姿はすでに、無い。


「卒業まで時間が無い。卒業する前に、ソフィアを手に入れられるといいけど…。」

 リュシュリュウは、ため息をつく。


「どうしたら、僕を好きになってくれるかな…。惚れ薬でも作るか?」

 残念ながら、肝心の惚れ薬のレシピを知らない。

そして、惚れ薬なんて一時的にしか効果は無い。

こんなものに頼る魔術師はほとんど、いない。

 自分の魔力は、闇。

精神操作をしようと思えばできないことはないけれど、それだけは、したくない。

人形のような彼女なんて、ぞっとするだけだ。


 ソフィアには、誓約の魔術紙にサインしてもらった。

それは、彼自身の保身のためではなく、彼女を守るため。

彼女を手に入れられないことに、目を背けていたけれど、なんとなく、気付いてもいた。だから、他の人に話ができないようにした。

彼女がリュシュリュウと婚約でもしたならともかく、彼の物ではない状態で、魔術庁の裏の顔を知った、と、知られたら、彼女は確実に人財管理部に消される。

それは、絶対に防ぎたかった。


 リュシュリュウは、苦い笑いをこぼす。


「父の二の舞だけは、したくなかったから、ね。」


 リュシュリュウの母は、彼が10歳の時に家を出て行った。

出て行って間もなく、街道で魔物に襲われ、事故死している。

あの時は運が悪かったのだと思っていたけれど、今はわかっている。

母は、わざと魔物に襲わされて、死んだのだと。


 母が出ていく直前、父に激高している声を、リュシューは覚えている。


「8家なんて、くそくらえ!そんなことを、そんな親の気持ちを、踏みにじるような所業を、よくも、よくも、続けていたわね!それに加担したあなたも、同罪よ!」


 母が父の引き留めを無視して出て行った後、彼は、父に、母が何に対して怒っていたのか、何度も、根気よく、聞いた。

そして、学院に入った後で、父からようやく理由を聞くことができた。

魔術庁の裏の仕事をうっかり知られてしまったのだ、と。

それを、気性が真っすぐな母は耐えられず、父を見限ったことを。

その時に、自分の跡を継ぐのだから、と人財管理部が何をしているか、具体的に教えてもらった。そのやり方に嫌悪が無かったわけではない。


 だけど、考えてしまったのだ。

我が国の歴史を。

魔術師であることの誇りを。

昔より、明らかに弱くなってきている、魔術師のことを。

そして、それに比例するように強くなってきている周囲の国を。


「結婚したあとで、ソフィアに見限られたら、生きていけないもんな…。」


 父は母がいなくなったあと、再婚しなかった。

父が母を愛していたことを、自分は知っている。

出ていく直前まで、両親は、子供心にも仲が良い夫婦だったのだ。

 今ならばまだ、彼女に振られても、傷は小さい。

でも、彼女を簡単に諦められるものでも、無い。なんとか、手を取って生きていく道を、探っていきたい。




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