リュシュー先輩の夢
「今日は、僕のことを知ってほしい、って誘ったよね?
僕は4大侯爵の1つ、ライドレー家の跡取りで、得意な学科は創造魔術と戦闘魔術。専攻は政治学。卒業後は魔術庁長官の直下で勤務したいと考えている。」
「趣味は、読書とチェス。あとは魔力について調べること。僕は魔力を持っていることを誇りに思っている。建国の王ドラコ王を深く尊敬しているから。だから、魔力について調べるのは趣味以上に好きかもしれない。」
「それで。僕の夢だけれど、それはこの国を魔術師の国にすること、なんだ。」
「魔術師の国?すでに、魔術師の国、ですよね?」
「厳密には違う。僕の理想は、ドラコ王の時代と同じように、魔力を持つ者が支配階級に立ち、魔力を持たないものはそれに隷属する国だ。」
「…あの。今、王宮では、多くの魔力を持たない人が働いていますよね?確か、外務大臣も魔力をお持ちではなかったはず?」
「うん。その通り。だけど、それが、僕は嫌なんだ。少なくとも、大臣や長が付くような官職は魔術師がなるべきなんだ。」
「…ごめんなさい。よく、わからないです。なぜ、魔術師でないと、ダメなんですか。」
「魔力を持つ者と、持たない者には、歴然とした差があるから。寿命も違う。やれることも違う。今のこの国は、魔力を持たない者のために社会の仕組みを整えている。だけれど、それを魔力を持つ者のために社会の仕組みを変えたら、一気に在り様が変わる。違う?」
黙り込む。
言わんとしていることは、わからないでも、無い。
魔力が使えることを前提とした社会であるならば、文明の在り方は今とかなり違ってくるだろう。
「でも。わたくしは、今の社会…魔術師とそうでない人達が共に生きている社会、が好きです。」
リュシュー先輩が、小さくため息をつく。
「君を説得するには、理想論だけ、じゃ、ダメみたいだね。…あまり、詳しく話す予定は、無かったんだけれど、僕は君と同じ道を歩きたい。よし、僕が知っていることを、全て、話そう。」
「ところで、ソフィアはすごく博学だけれど、魔力についてどれくらい知っているの?」
いきなり聞かれてとまどう。
「魔力持ちは遺伝しないこととか、学院を卒業しないと魔術師になれないこと、のことでしょうか?」
「うん。そうだね。それが、世間の常識だ。…さて、今日、僕が話すことは一部の人間しか知らない情報だから、誰にも話さないと約束してくれる?」
「え?そんな秘密情報を、私に教えて良いのですか?」
「君なら、構わない。僕は君を信用している。約束を守る人、だと。そして、僕は隠し事をしたまま、君と交際するのは嫌だ。君には、ちゃんと、なぜ僕が魔術師の国を作ろうと思ったか、その理由を知ってほしいんだ。」
渋々、うなずく。
「とはいえ、申し訳ないけれど、他言無用の誓約をしてくれる?信じていないわけではない。でも、本来は君に話すことが許されていない話だから。」
リュシュー先輩がポケットから紙を取り出す。
入学時に誓約したのと同じ、魔紙でできていることが一目でわかった。
誓約内容は、今日、彼から聞いた話を他の人に話さない。というシンプルなもの。
「誓約を破ったら、どうなりますか?」
「これは破りようが無いかな?話そうとしたら、喉が詰まって声が出なくなる感じ?あと、期限があるよ。1年限定。もちろん、1年経っても、秘密にしておいてほしいけれど、そこは君を信用している。あと、それは文字に書くこともできないから。文字に書くと、燃えちゃうので、気を付けて。」
魔力について、もっと知りたい。
好奇心に負けた。それに、1年間の他言無用の誓約なら、特に問題ない。
誓約書にサインする。
その誓約書をポケットにしまってから、リュシュー先輩があらためて話を始めた。
次回、ランドール国の魔力についての真実が語られます。デート中の話題じゃないですが。リュシュー先輩は、真面目で不器用なのです。