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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院3年生
31/172

リュシュー先輩との外出



 日曜日。

リュシュー先輩は約束通り、迎えに来た。

学院の門を出ると、馬車が待っている。

「乗って?」

「歩いていかないのですか?」

「ちょっとね、町はずれの湖に行こうと思って。距離があるから、馬車で。」

リュシュー先輩にエスコートされて、馬車に乗り込む。


いつもウィンドウショッピングをする通りを駆け抜けて、1時間近く走れば、家もぽつんぽつんと点在する程度の広い草原が広がっているところまで来る。

草原にはのどかに草をはむ牛や馬が点在していた。

サピエンツィアにもこんなのどかなところがあったんだ。


小さなコテージの前で馬車が止まり、リュシュー先輩が先に飛び降りて、私に手を差しのべてくる。

「お疲れさま。目的地に到着したよ。」


「このコテージは?」

「僕が持っている別荘。」

さらっと、すごいことを言っている。

「この別荘の裏に湖があって、そこがきれいなんだ。君に見せたくて。」

「サピエンツィアは、学生が長期休みに滞在できない町だと思っていたけれど、いつ、この別荘を使うのでしょう?」

「当然、日曜日。…まあ、めったに、ここには来ないけれど…」

めったに来ないのに、別荘を持ってるって、どれだけお坊ちゃまなんだ。


「ともかく、もうすぐお昼だし、1時間も揺られておなかが空いたでしょ?」

リュシュー先輩が手を取って、コテージの裏手に案内してくれる。

手を取られたとき、びくっとしてひっこめようとしたけど、ぎゅっと握られて、ダメだった。

コテージの両側には大きな木が茂っていたため、正面からは見えなかった湖が目の前に現れる。

「わあ…。」

小さい湖だけれど、とても透き通って、すごくきれい。

裏庭にはティーテーブルが置かれてすでに紅茶とランチボックスが用意されており、そこに座るように案内された。


ランチボックスの中には、サンドイッチやスコーン、串にさした肉や魚、プチケーキなどが詰まっていた。全部、片手で食べられるようになっている。

それをおいしく食べながら、質問してみる。


「スナイドレー教授は、リュシュー先輩の担任でしたよね?」

「うん。担任だけど、どうかした?」

「どんな教授でしょうか?」

「どんな…って。尊敬できる教授だよ?四大公爵の一人で、薬学魔術に関しては、この国一番の才能を持つ。授業は厳しいけれどたくさんの知識を与えてくれる。…教授がどうかしたの?」

最初の授業で起こったことを簡単に話す。

嫌がらせされたような気がする…と。


「うーん。たまたまじゃないの?教授は確かに生徒に対して冷たい態度をとるけれど、僕は、教授が大変忙しい方なので、本来は教育に関わりたくないからだと思っている。」


それでも、私だけ敵視されている気がするけど。

さすがにそこまでは、リュシュー先輩に聞くべきではないだろう。


「スナイドレー教授が好きなの?」

黙り込んでしまった私の顔の前に、リュシュー先輩の顔が迫っている。

「いえ!そんなことは!」

慌てて後に下がろうとして、椅子がひっくり返りかけた。

とっさに、リュシュー先輩が押さえてくれたから転がり落ちないで済んだ。

「そう?僕のことを知ってほしくて誘ったのに、他の男性の話をさせられるなんて、妬けるんだけどなあ。」

笑顔がまぶしくて、破壊力が強い。

「いえいえ!ありえません!それに、わたくし、嫌われているようですし!」

うっかり、口が滑ってしまう。

「嫌われている?」

「すみません。嫌われているのかと思った。ですっ!…瓶を受け取ってもらえなかったので!」

あわてて取り繕う。

「単に手が滑っただけだと思うよ。たぶん、嫌われていないよ。ソフィアは優秀だから。教授は優秀な生徒を大事にしている。」

「そ、そう、そうですか!」


すっかり気が動転している。

妬けるって何ですか、私のこと、そんなに好きですか。

スナイドレー教授のことは納得できない部分が多いけれど、これ以上、情報はなさそうだ。


リュシュー先輩がおたおたしている私を見ながら、ふっと微笑んで立ち上がり、手を差し出してくる。

「湖で船に乗らない?」


ボートは魔道具だった。

リュシュー先輩がボートの船尾に付いてる黒い石に魔力を注いだら、勝手に湖上を滑り出す。

「このボート、魔術具なんですね!」

「うん。僕が作った。」

「え?リュシュー先輩が?すごい!」

「魔石に魔法陣を刻んで、魔術をこめたら、物が動く。それくらいだったら、誰でもできる。4年生になると、授業でそれを習うから、応用すればいいだけだ。」

「わあ、じゃ、わたくしにも作れるかしら?」

「そうだね、ソフィなら作れると思う。」


湖の真ん中に来た時、ボートが止まった。

「あら?」

「こめて置いた魔力が切れたかな。魔力をまたこめれば、動く。」

「なるほど…。では、今度はわたくしが魔力をこめますわ?」

「いや、ちょっと待って。少し、ここでゆっくり話そう?こんなにきれいなんだから。」言われてみれば確かに、きれいだ。

湖の水はとても透明で、深いのだろうけど底が見える。泳いでいる魚も。

湖の周りは木々で囲まれ、絵画の中の世界のように美しい。




次回、リュシュー先輩が、デート中にしては、甘さゼロの、重い話をし始めます。

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