魔術学院からの迎え1
翌日。
ダングレー侯爵夫人は苛立ちを抑えきれず、手にした扇子を開いたり閉じたりしていた。
「奥様、魔術学院からお迎えの使者が参られました。」
「お通し。」
ベッキーが客人を案内してくる。
闇夜色のマントで全身を覆った背が高い、漆黒の髪と目を持つ男性が案内されてくる。
「初めてお目にかかる。ランドール国立魔術学院に、ソフィア・ダングレー令嬢をお連れするために遣わされた、ランドール魔術師団副団長のリットン・グレーと申す。」
「まあ、グレー伯爵!最近は夜会でお会いしませんでしたが、お変わりございませんか。」
「私のことはどうでもよい。ソフィア殿はいずこに?私は暇ではない。案内いただこう。」
「ほ。あの子はここにいません。」
「何?」
「あの子は死にました。」
グレーは、眉をひそめた。
「いつ?」
「…昨夜ですわ。」
「嘘だな」
「なっ!無礼なっ!」
グレーは、ふん、と左手で髪をかきあげながら、ダングレー侯爵夫人をにらみつけた。
「私は今朝、学院で召喚予定のリストを見た。リストには生者のみが記される。そこに、ソフィア・ダングレーと名前が刻印されていた。つまり、今朝、彼女は確かに生きていた。」
「!」
「子を学院に入れたがらぬ親は確かにいる。だからこそ、我らがわざわざ迎えに行くのだ。
ソフィア殿のところに案内してもらおうか。逆らうなら、国への反逆罪として捕縛するが、どうする?」
「あの子はもう、ここにはいませんわ!」
「…フン。勝手に探させてもらおうか。」
「ぶ、無礼な!侯爵家の屋敷の中を勝手に捜索など、許しません!」
「何度も言わせるな!腐っても貴族であるならば、我らが迎えに来た時に逆らうものは反逆者として扱って良いという勅令を知らぬわけではあるまい!」
グレーは一喝し、ダングレー侯爵夫人に背を向け、部屋を出ていく。
グレー伯爵、なんとしても、ソフィアを見つけてあげてください!