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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院1年生
26/172

後期授業



 7月14日。夏休み最後の日の早朝。

ベッキーがいらただしげに部屋に入ってきて、玄関の外に追い出した。

「学院へ戻るのでしょう。迎えの者を奥様がいらっしゃらない屋敷にいれるわけにはいかないので、お前はここで迎えの者を待ちなさい。」

それだけ言うと、ぴしゃりと屋敷の扉を閉じる。


なんだかんだ言っても、ベッキーは少なくとも私を庇護してくれたと、思う。

「ベッキーさん、ありがとう。」

聞こえるかわからないけど、屋敷の玄関のドアに向かって声をかけた。


それから目を軽くつぶり、集中する。

「ランドール国立魔術学院へ戻りたい。」


頭の中で学院を思い浮かべるが早く、空気が変わったのを感じた。

目の前に真紅と青白の炎の円環がある。

「戻ってきたんだ!」

うれしさに、顔が緩む。

炎の円環に飛び込めば、学院までの道が続く。

早朝だからか誰も歩いていない。


 学院の門をくぐり、本館の扉を開けたところの大ホールには、掲示板が6台、展示されていた。普段はこの大ホールに掲示板は無い。

掲示板の枠の色は、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫。学年ごとのクラス分けの掲示。

AからDクラスの名簿と、その隣に成績が貼り出してある。


 私はAクラスだった。

そして、成績は学年1位。

成績表の一番上に自分の名前があるのが信じられなくて、何度も見てしまう。

自分の名前のところを指でなぞってしまう。

ペーパーテストは自信があったけれど、魔術の実技は少し不安があったので、総合成績が1位なのは、ちょっと信じられないくらい、うれしかった。


まだ誰も来ていない早朝のホールで、軽くガッツポーズをとった時、またもや、ぞくっと背筋が凍るような視線を感じ、思わず、ホールの上を見上げる。

「フィロス・スナイドレー教授…。」

目があった、と思ったら、ふいっと彼は消えていた。

なぜだろう。

なぜ、彼は憎悪の目で見るのだろう。…私には全く心当たりがない。



「あれ、ソフィア、早いね。おはよう。」

明るい声に振り返れば、リチャード・モントレーがロビーに入ってきていた。

戦闘魔術で、私がどんなに頑張っても勝てないライバル。

「おはよう、リチャード。あなたこそ、ずいぶん早いじゃない。」

「んー、魔術中毒かなあ。魔術剣使いたくて、使いたくて。学院長から禁止されてなかったら、魔術剣の稽古したんだけど、禁止されていたから禁断症状出ちまった。休暇中は、普通の剣術の教師を呼んでもらって、剣術自体は毎日やってたんだけど、限界だあ…。」

思わず笑ってしまった。魔術中毒。でも、気持ちは、よくわかる。


「えーと、僕のクラスは…。お、Aクラスだ。ソフィアとも一緒か。後期もよろしく!」

リチャードに笑顔を向けられて、ほっとする。

「こちらこそ。」

リチャードは続いて成績表も見て、

「ソフィア、お前、1位。すごいな。」

と、びっくりしている。

そういう彼は、3位だ。

戦闘魔術に夢中な割には頭も良かったようだ。

2位がクレイドル・ミレー。血を見るのが大嫌いな彼は、将来、外務大臣になりたいと言って、休み時間も静かに勉強している、かなりのがり勉さんだ。

彼は絵の方が向いていると思うのだけど、彼に言わせると、絵画魔術は趣味で良いらしい。

4位には、エリザベスが入っている。

5位に、アンドリュー・ドメスレー。父親が公爵で、彼は非常に貴族主義が強い。それが好きになれず、あまり話をしたことがない。

ジェニファーは10位に入った。


Aクラスは今回、12名。

ぎりぎり12位に入った、ケン・コビンは前期、別クラスだったので、初めて聞く名前だ。それ以外は全員、前期と同じメンバーだった。

そして、ジェニファーとコビン以外は全員、貴族。

貴族の方が魔力が強いということはないはずだが、おそらく、幼少時から家庭教師を付けて勉強している貴族の方がペーパーテストに強かったということなのだと思う。

上級生になるころには貴族だからと油断していたら、あっという間に下に落ちるだろう。


 リュシュー先輩のことがちょっと気になって、4年生の掲示板も見に行く。

Aクラス。5名。

前期は7名いたはずだ。2名が下に落ちた?

その中にリシュリュウ・ライドレーの名前があった。

リュシュー先輩と一緒にいる、マーク・ケンドルとダニエル・クックレーが、Aクラス。

そして、この3名が成績上位3位までを独占していた。

1位は当然、リュシュー先輩だ。


 リュシュー先輩達には、夏休み前、日曜日に数回、食事をおごってもらった。

エリザベス、ジェニファーと一緒に。

ジェニファーはケンドルと仲が良い。たまに、放課後も2人きりで話をしてるみたい。

私はリュシュー先輩を嫌いではない。

リュシュー先輩からはいろいろと有益な情報をもらえているし、親切にしてもらえているから。

それでも、なんとなく一歩引いてしまうのは、時々見かけるリュシュー先輩の態度が好きになれないからだ。

彼は自分と同じクラスの生徒以外に対して、冷たい態度を崩さず、話しかけられても(彼はもてるようだ。よく女生徒が話しかけてきている)Aクラス以外の生徒の場合、完全に無視していた。

それさえなければ、良い先輩なのだけれど。




 翌日から後期授業が始まった。

クラス担任は前期と同じ、ベリル教授だった。

クラス分けがあったとはいえ、同じクラスのメンバーと一緒に受けるのは一般科目のみ。

魔術の教科の授業は、それぞれの教科での成績順に割り振られ、Aクラス以外のメンバーが居る授業も増えた。

たとえば、園芸魔術はなんとDクラスの生徒がAクラスに来ている。彼の実家は農家だそうで、親が遺伝子組み換えを熱心に研究しているとか。彼も園芸魔術にすべての情熱を注いでいるらしく、その代わり、他の科目が軒並み、目が当てられない成績みたい。

でも、彼のように一芸に秀でる生徒は珍しくないと聞く。


 ちなみに、私とエリザベス、リチャードとミレーはすべての教科でAクラスだった。

あまり好きではない、アンドリュー・ドメスレーも。

ジェニファーは、化学魔術と物理魔術が苦手で、Bクラス。

当初は寂しがっていたけれど、もともと社交的な彼女は人脈を広げる良い機会、とばかり、そちらでも多くの友人を獲得している。

ずっと一人で暮らしてきたからか、人に話しかけるのが苦手な私は、友達を作るのが上手なジェニファーをちょっぴり、うらやましく感じる。


次回から、一気に3年生に飛びます。1年、2年は、やはり、勉強三昧のため、特筆することがないので。

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