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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院1年生
24/172

前期試験

 初めての学院生活は楽しく充実したまま、あっという間に半年が過ぎ、夏季休暇の2週間前から試験が始まった。


 一般教養はペーパーテスト、魔術学はペーパーテストに加えて実技がある。

同級生みんなが教科書やノートを見返して唸っている。

そんな中、ペーパーテストに関して全く心配していなかった。

私の図書室(メイ・パラディース)で過ごした時間は伊達ではない。

その読書の知識が教授の詳しい説明を受けて、私の中にしっかりと根付いていたから。


 いざ、試験が始まってみれば思ったとおり、ペーパーテストは難なくすべてすらすら解くことができた。


 魔術を使う実技試験も音楽と絵画以外は上位の成績を取れる自信がある。

ほとんどの魔術の授業は魔力が多く、その魔力を自分で制御できればそれだけで100点取れてしまうのだ。1年生でそれほど難しくないからだとわかってはいるけれど。

 実は魔術の授業を受けるうちに、教授たちから私の魔力は学年でもトップクラスと認定されている。入学当初、落ち込んでいたのが嘘みたい。そして、その魔力の流れを見ることができたので制御にもそれほど苦労していない。


 ただし、音楽と絵画はどうも才能がない気がする。


 ピアノの試験は、エリザベスが素晴らしかった。3歳の時からピアノを習っていたそうで、難曲も楽々弾きこなす。そこに魔力をこめて演奏されると一時的にだけど、うっとりと魅了をかけられてしまう。教授もエリザベスに魅了の力が強いので気を付けるように、注意をしつつ、絶賛していた。私は両手でようやく弾けるようになった程度なので魔力をこめても、こめる前より上手に聞こえる程度にしかならない。なんとか及第点は取れるだろうけれど。


 絵画の試験は自室で描いた絵を試験日に提出する。何日もかかるから。同級生たちの中では、クレイドル・ミレーが素晴らしかった。デッサン力が高いだけでなく、魔力をこめるセンスが素晴らしい。彼が試験に提出した絵はキャンパスの端から端まで馬の集団が駆けていく魔術絵で、先生がその場で絶賛していた。

私は風景画を出したけど、木々の葉っぱが風でさやさや言う程度の魔術絵で、ミレーの次に先生に見てもらうのが恥ずかしかった。


 さて、最後の試験は戦闘魔術。


 戦闘魔術はとにかく体力を使うため、試験が終わったら、他の試験を受けられる状態ではなくなるので、どの学年も一番最後の試験となる。試験内容は同じ学年の生徒同士で1対1での勝ち抜き戦だ。一番最初に組む相手はくじ引きで選ばれる。試験が始まるまでの間、なんとなく戦闘魔術の授業を思い返していた。



 最初の頃は体力が無く、剣の素振りだけですぐ息が上がってしまい、模擬試合は途中で見学せざるをえなかったのを思い出す。それがとても悔しくて、毎朝、朝食前にランニングを頑張った。

学院に来る前、室内に閉じ込められていた時、外を思いっきり走りたいと夢見ていたから、それが叶ったわけで早朝の風を受けながら走るのはとても楽しく、身体がきついという体験さえ、大喜びで受け入れたっけ。筋肉痛を喜ぶなんて、あなたってば、ちょっとおかしいわ。とエリザベスやジェニファーに呆れられたけれど。


 頑張った成果は必ず出るのね。最近は他の同級生と同じくらいの体力がついて、模擬試合も最後まで残るようになれた。それに結構、試合に勝てている。なぜなら、魔術剣での打ち合いは剣技の実力が同じであれば、魔力が多い方が圧倒的に有利。私は魔力が多いから。


 魔術の武器は属性によって、有利、不利が分かれる。

 火は水に弱い。水は風に弱い。風は土に弱い。土は火に弱い。火水風土は闇と光に弱い。闇と光は拮抗するが、星はどこにも属さず、弱点が無い。


 だから、私は魔力が多くて弱点の属性が無い、という最初から高いスペックだったので、エリザベスやジェニファーにずいぶんうらやましがられた。

 とはいえ、魔力に差があれば、属性の有利、不利はあまり関係なくなる。魔力が同じなら、火は水に消されて負けるが、火の方が魔力が大きいなら水が負ける。水蒸気となって蒸発してしまうから。それに、実際の模擬試合では、体力、剣の技術、戦い方など、いろいろな条件で勝ち負けが左右されるので、有利とは言ってもすんなり誰にでも勝てるわけではない。

 たとえば、背の高い男子生徒からいきなり剣をふりかぶられた場合など、レイピアでとっさに受けとめられたとしても重くて受けきれず、あっさり切られてしまうだろう。だから、有利だから勝てるとは限らない。


 それでも、意外と強くなれたのは、魔術剣での模擬試合は剣を直接打ち合うだけでなく、剣から魔力の塊を放出して戦うことができるから。これなら、遠距離からの攻撃ができる。直接打ち合わざるをえない場合は受け流して逃げに専念し、隙を見て魔力を打ち出す戦法を取っている。意外とそれが今のところはうまくいっているから、試験でもそれを意識しないと。

 初めて、剣から炎や氷の玉が打ち出されて迫ってくるのを見たときの恐怖は、どこへ行ってしまったのかしら。あの時はとにかく怖くて逃げ惑うしかなかったのに。それが今はそれを受け流したり、こちらの攻撃にぶつけて相殺したり、といった戦い方ができる。


 そういえば、この闘技場は各自が本気で魔力を放出したら、大けが、最悪、死亡もありえるので、放出される魔力の威力が1割以下に抑えられる魔術がかかっているから思い切り、魔力を出せるのはありがたい。1割以下でもまともに当たれば痛いし、青あざや、切り傷が絶えないけれど。


 でも、魔術剣に限らないことだけれど、学べば学ぶほど、学生や教授の情報を外に漏らしてはならないと誓約した理由がよくわかる。相手の属性が事前にわかっていれば、有利に戦闘を進めることができるのだから。



 ・・・あ、私の名前が呼ばれた。行かなくては。


 結局、私は決勝まで進み、決勝の相手はリチャードだった。リチャードの属性は風。魔力量はわたしの方が上。でも、あっさり、負けた。つむじ風で足をすくわれ、よろけたところに風の刃が剣の持ち手を打ち、レイピアを取り落とした。拾う前に彼の長剣がつきつけられ、あっさり敗北。リチャードはどちらかというと直接攻撃が得意なタイプだったので、油断した。遠距離攻撃は得意とするところだったのに、悔しい・・・。


 ぐぐぐ、と悔しがっていた私は、リチャードがつぶやいた言葉に気付かなかった。


女性(ソフィア)相手に、直接、切り掛かれるかよ。怪我させたくないもんなあ。」


ソフィアは天才?違います。読書量が半端なかっただけです。

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