両親の遺産
翌週の土曜日、エリザベスとジェニファーに付き添ってもらって、銀行の窓口に行った。
両親が魔術師の場合、彼らの財産がどうなるのか聞いたところ、ジェニファーが指摘したとおり、凍結されていることがわかった。
魔術師が亡くなった場合、魔術師ではない親類には財産があることすら、わからない。
魔術師の親類が申し出た場合、やっとその財産を動かせるのだそうだ。
今回は、役所で両親が死亡したことを証明する書類と、私が両親の子供であることを証明する書類の2つをもらってくれば、私のカードに遺産が移されると説明を受けた。
このサピエンツィアにも役所がある。
ここにも、2人が一緒についてきてくれて、必要な書類を発行してもらう。
エリザベスが、父の名前の欄を見てつぶやいた。
「アクシアス・プラエフクトウス…。プラエフクトウス?」
「どうしたの?リズ?」
「プラエフクトウス…。どこかで聞いたことがあるような気がしますの。」
「後で思い出したら教えてね、リズ。父のこと、何も知りませんの。」
「ええ、わかりましたわ。」
銀行に2種類の書類を提出したら、私だけ一人、個室に通される。
そこにやってきた銀行の副頭取という人から、両親の残した金額を教えてもらえた。
父の口座には約2500万ドール。
母の口座には約1000万ドールが、残っていた。
私のカードに3500万ドールが移される。
思った以上の大金に驚きすぎて、顔が真っ赤になっていたと、思う。
そんな私を気遣ってくれたのだろう。
副頭取が、注意をしてくれる。
「大金ですが、おそらく、これからあなたが魔術師になるのなら、足りないくらいの金額と思います。くれぐれも、無駄に使われることが無いように…。」
確かにその通りだ。
できるだけ、この両親のお金には手を付けないようにしよう。
当初の予定通り、お給料の範囲で頑張ろう。
そうしたら、学院卒業後、この遺産で小さな家が買える。
魔道具のお店を作ってもいいかもしれない。
自活できれば、侯爵家に戻らなくても済む。
戻る気はもともとないけれど。
エリザベスとジェニファーは、銀行の待合室で待っていてくれた。
「あら。手続き、終わりましたの?ずいぶん早かったですわね?」
「ごめんなさい。せっかくの休日なのに、半日も私の事情で付き合っていただいて。特に、ジェニファー、ありがとう。おかげで、遺産もらえて助かったわ。」
「何言ってるの、ソフィ。友達のために役立てて良かった。」
2人とも、楽しそうに笑ってくれる。
「もうお昼ね。何か食べてから、ウィンドウショッピングして帰りましょ?」
…幸せだ。
学院に入学してからやさしい友人ができた。
勉強も楽しいし、衣食住も十分。
この幸せがずっと続くといいのに。
3500万ドールあれば、首都ランズでも、小さな家が買えます。首都を離れれば、ちょっとした邸宅も買えるかも。