閣下
「リュー、さっきの話は、なんだ。」
ダニエル・クックレーが苦々しげに言う。
ここは、リシュリュウ・ライドレーがサピエンツィアで借りている、こじんまりとした邸宅の一室だ。
「何の話?ダニ?」
「とぼけるな。ソフィア・ダングレーに、魔力は選ばれた者だけという話をしていただろう。」
「…ダングレーを引き込めないかなと思って。」
「なぜだ?」
「彼女はおそらく、幸せではない幼少期を過ごしている。生まれた環境に反発している可能性が高いし、それに何よりステラだ。魔力が強い可能性がある。」
「…ステラ…。」
「そうだ、選ばれしものとして資格があると思わないかい?」
クックレーは、ため息をついた。
「気持ちはわかるが…。急ぎすぎだ。ダングレーがどのような人間かわからない以上、余計な話は危険だ。」
「何か、厄介ごとでも起こったのかね?」
2人が、はっとしたように立ち上がる。
「こちらにおいでとは、お珍しい。いかがなさいました?閣下。」
「学院長に呼ばれてね…。何、大したことではない。我々の動きも全く知られていないようだし。」
「さようでございましたか。」
「で、何かトラブルかね?」
「いえ、なんでもございません。ライドレーが、新入生の女生徒に例の話を振ったので、咎めておりました。」
「新入生に?…まだ1週間で、気になる生徒がいたのかね?」
「ステラに入寮しました。」
「ステラ、か。」
閣下と呼ばれた男は顎に手をあて、少し考え込んだ。
「それは気になるが、くれぐれも、用心をするように。」
「承知しました。ところで、新しい同志がまた増えました。」
「ほお…。それは、重畳。誰かね?」
「は、実は…。」
閣下、登場。ソフィアに、今後、絡んでいきます。