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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院1年生
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初めての魔術の授業



 初めての魔術関係の授業は「戦闘魔術」だった。

魔術での戦い方を学ぶ授業だ。

したがって、教室は大きな円形の闘技場。


「私が戦闘魔術を教える、リットン・グレーだ。知っている者も多いだろうが、魔術師団副団長を兼任している。」


グレーさん、いえ、もう教授と呼ばないといけないわね。

迎えに来てくれた時は黒ずくめにマントを羽織っていたけれど、今は動きやすそうな騎士服を着ている。


「戦闘魔術を見たことがあるものはいるか?」


クラスの半数くらいが手を挙げる。その中にはエリザベスも混じっていた。


「リズ、見たことあるの?」

「ええ、宮殿で。建国祭の時に魔術師団が戦闘魔術で試合をするの。お父様に連れて行ってもらったことがあるわ。」


「見たことが無い者が半数か。それでは、まず、基本的な魔術剣を見てもらうか。」

「グラディウス!」

グレー教授の手に赤く光る剣が出現する。

刀身には、ばちばちと赤い火花のようなものがはじけている。

とても美しい。思わず、身を乗り出してしまう。


「魔術で作る剣は人それぞれ違う。自分の持つ最も強い属性をまとう。私は火属性が強いので、炎の剣が出現している。…。ふむ。魔術剣をすでに使えるものはいるか?」


1人が挙手する。


「おお。リチャード・モントレー。君か。悪いが、君も剣を出してみてくれないか。」


指名されたモントレーが、しっかりした足取りで前に出てくる。

「グラディウス!」

モントレーの手には緑に光る剣が握られていた。

緑色のかすみが、剣の周りを緩やかに回っている。


「ほお、モントレーは、ヴェントゥス、風か。

このように、私の剣とモントレーの剣は見た目が全く違うだろう?

ありがとう、剣をしまってくれ」


モントレーが軽く剣を下に向けて振ると、剣が掻き消える。

同様に、グレー教授も剣を消す。


「魔術剣ひとつとっても、普通の金属の剣とは見た目が違う。

それだけでなく、打ち合ってみればわかるが、金属の剣とは全く違う使い心地だ。

戦闘魔術の授業は6年間、毎週、最低1回必須となる。

最初は剣を使うが、そのうち、自分に最も合う武器を使えるようにする。

それは、自分の身を守るため、そして、いざという時、国を守るためだ。」


「特に女性。普通の女性は武器を持たないし、戦う必要はほとんどないだろう。

しかし、魔術師の女性は戦う術を持たねばならない。

なぜならば、危険に合う確率が普通の女性より格段に高いからだ。

魔術師相手はもとより魔術を持たぬ人間でも、魔術師を利用しようとする輩は多い。

女性の場合、手籠めにしてでも言うことを聞かせようとする輩が悲しいことに多い。

自分の身を守るために、戦闘魔術は必須だ。」


ごくっと、唾をのむ。

隣のエリザベスとジェニファーも顔を引きつらせて聞いている。


「では、まず、基本だ。自分の魔術剣を作ってみよう。全員、目をつぶれ。」


目をつぶった。


「体内に意識を向けてみよ。流れる血液を感じるのだ。血液の中にある、あたたかい、光る液体のような流れ、それが魔力だ。その流れを探せ。」


意識を集中する。

周りから誰もいなくなった感覚。

流れる血液を意識する。

血液というよりも、光る魔力を。

自分の中に、銀色に近い魔力が全身をめぐっているのが見える。


「光る流れを感じたら、その光で剣を作るイメージを持て。剣はどんなものでも構わん。自分が使いたい剣を思い浮かべろ。イメージができたら、『グラディス』と声に出せ。イメージできていれば、魔術剣をその手に持っているだろう。」


私の剣のイメージは、侯爵家のおじい様の部屋にかざられていた細身の剣、レイピアだ。

あんなに細かったら簡単に折れてしまいそうだと思ったけれど、おじい様は、

「あの剣を折れる剣はあるまいよ。」

と言っていた。

柄に細かな模様が彫り込まれた、見た目はとても繊細な細身の、美しい剣。


私の中に流れる銀色はその細身の剣と似ている。

自然とその剣がイメージできた。

「グラディウス」


目をあければ、右手に白銀に光る、細身の剣が握られていた。

白銀の刀剣は淡い銀の光を放ち、その光は広い闘技場の半分くらいを照らしているように見える。


「ダングレー。君の、その剣は…」


グレー教授があ然とつぶやく。


すでに剣を出せるモントレー以外の生徒はまだ剣を出せていないけれど、銀色の光が目をつぶっていてもわかったのだろう、目を開き、びっくりした顔でこちらを見ている生徒が何人も居た。


「なんて、きれい…。」

エリザベスが隣でぽつりとつぶやく。


グレー教授がその時、はっとしたように、

「そうか、ダングレーは、ステラ、か。星の輝き。」


グレー教授は首をふり、生徒全員を見渡して命令する。

「人の剣の見学は後だ。まずは、自分の剣を出すことに注力しろ!目をつぶれ!」

あわてて、みんながまた目をつぶって、剣を出すために集中する。

それを見届けてから、グレー教授は私のそばに近づき、

「剣の光を弱めるイメージはできるか?」

と聞いてきた。

「魔力が拡がりすぎている。刀身にまとわせるイメージを持ってみてくれ。」

頷いて、刀身に光よ集まれ。と念じてみる。

広範囲を照らしていた光が刀身の周りに集まる。

刀身はさっきよりもっと光輝いたけれど、どうにか、グレー教授が指示した通りにはできたようだ。

「うん。それでいい。…それにしても、ステラか。聞いたことはあるが、初めて見た…。」


なかなか魔術剣を出すのは難しいようで、モントレーと私以外、剣を持っている者はいない。

グレー教授は私から離れ、他の生徒を見守り始めた。


「すごいな。一瞬で剣を出せるなんて。僕は初めて剣を出したのが10歳の時だけど、魔力の流れを最初につかむまで、魔術師の家庭教師に教わりながら1週間くらいかかったよ。」

モントレーが話しかけてきた。

「10歳でもう出せたの?すごいじゃない。」

「そんなことないさ。僕に魔力があるって、両親が気付いたのは僕が9歳の時で。そこからずっと魔術師が家庭教師としてそばにいたから。遅いくらいだと思うよ。君も魔術師の家庭教師がいたのかい?」

「いいえ。わたくし、家庭教師自体がいなかったし。」

「そうなんだ。あ、すまない、ダングレーだったか。君は両親がもういなかったね。」

「気にしてないけど。ねえ、ダングレーってそんなに有名?」

少し困ったように、モントレーは口を濁した。

「うん。いや。うーん。…そうだね。そうかもしれない。詳細は知らないけれど、貴族の令嬢が駆け落ちって前代未聞のスキャンダルだから。貴族なら誰でも知っているかと思うよ…」


その時、エリザベスの手に青い剣が出現した。

「やりましたわ!」

青い剣の周りには細かな水滴が浮かんでいる。

モントレーが楽しそうにエリザベスに声をかける。

「エリザベス。すごいじゃないか。君はアクアだね。すごくきれいだよ。」

「ありがとう。リチャード。」

「さすがだね。魔力の流れをこんなに早く剣にイメージできるなんて。」

「魔力の流れについては家庭教師に教わってましたもの。」

「だよねえ…。」

モントレーがくるりと私の方を向く。

「なんで、いきなり、魔力の流れを感知できたのかなあ。」

「あら、ソフィは魔力の流れを感知したの、今日が初めてですの?」

びっくりしたように、エリザベスが聞いてくる。

魔力の流れが体内をめぐっているということは知識として知っていたけれど、自分の中を見てみようと思ったことが今まで無かったので、今日、初めて自分の魔力の流れを見た。

魔力を持っているなら、誰でも簡単に見られるのではないのだろうか。

そっと、エリザベスにそれを聞いたら、白い目で見られた。

「信じられない。魔力の流れなんて簡単に感知できなくてよ。ねえ、リチャード?」

「うん。僕だって、1週間はかかったけど。エリザベスは?」

「同じくらいかしら。」

「でも、見えてしまったんだもの…。」

「ソフィは魔術の才能があるのかもしれないわよね?」

エリザベスがくすっと笑う。

「そうだね。ダングレー、いや、ソフィアと呼んでも?で、僕のことは、リチャード、と。」

「ええ、よろしくてよ。リチャード。」


 結局、この授業で剣を出すことができたのは、クラスメート24人のうち6人。

リチャード、エリザベス、私以外に3人の男子生徒だけだった。3人とも貴族だ。

うち1人が、血を見るのが嫌いだと言っていたクレイドル・ミレーだった。

エリザベスが、

「やっぱり貴族は魔力があるってわかると、家庭教師をつけますもの。有利ですわね。」

と言っていた。


グレー教授がエリザベスの声にうなずきながら全員に声をかける。

「今日、魔術剣を出せなくても、問題ない。魔力の流れを意識するのには時間がかかる。今日、剣を出せたのは前から家庭教師をつけてもらえて、魔力の流れをすでに感じている者たちだっただろう。来週までに魔術の授業が他にもいろいろあるはずだ。その時も、魔力の流れを感じる必要がある。いやでも、毎日、魔力の流れを意識せねばならぬ。したがって、来週のこの授業では全員が剣を出すことができると思う。」


「では、今日の授業は終了!」


 ジェニファーが悔しそうに、何で魔力の流れがわからないの、と愚痴っていた。

エリザベスが自分でも1週間くらいかかったのだと慰めている。

「ソフィも1週間くらいかかったの?」

とジェニファーに聞かれて、なんとなく、あいまいにうなずいてしまい、エリザベスに、ジトっと見られたけど、幸い、エリザベスは何も言わなかった。



授業が始まりました。ソフィアは意外と、メイ・パラディースでの読書三昧が、授業に役立っていることに気づいていきます。

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