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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院1年生
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初めての授業



 本格的に、授業が始まった。

魔術だけでなく普通の学校で学ぶような一般教科ももちろんある。


最初の記念すべき授業は歴史学。副学院長のオバレー教授だった。

「魔力を持つ生徒たちの中には魔術以外の勉強は不要だと思っている者がいますが、それは間違いです。」

開口一番に、オバレー教授は厳しい目を生徒たちに向けて話し出す。

「魔術は創造の力です。創造するためには前提として、たくさんの知識が必要です。たとえば、あなた達がパンを食べたいとします。パンの材料さえあれば、魔術でパンを作り出すことは可能ですが、パンは何で作られているのかわかっていなければ、材料を用意することはできないでしょう?」


「魔術師によって使える魔術が異なるのは、その知識が各々違うことも理由の一つです。興味を持っている分野、得意な分野は、それに対する知識が多いので、あらゆる種類の、強い魔術を行使することができます。」

「わたくしが教える歴史学も同様です。先達の魔術師がどのように生きてきたのか、歴史を知ることは、あなた方が生きる上で大いに参考になることでしょう。わたくしの教える歴史は通常の国民が学ぶランドール国の建国から現在までの一般的な教養としての内容も含みますが、それは最初の1か月で駆け抜け、残りは魔術の歴史となります。」

「この授業は魔術を使うことはなく、座学。試験は筆記テスト。100点満点中、25点未満であったら、落第となります。しっかり覚えてほしいと思います。」


駆け足で終わらせると言ったとおり、我が国の主要な歴史が次々と説明されていく。


 我が国ランドールって、「ランダル:統治者」という意味で命名されていたんだ。

もともとはたくさんの小国だったのを、建国のドラコ王が魔術で征服して一つの国にまとめあげて統治したことが由来だそうだ。

そこから始まって、侵略戦争だの、内戦だの、数百年の歴史を一気に講義されていく。

詰め込み過ぎだが、歴史上の出来事の説明がとても上手でおもしろく、夢中になって授業を受けていた。

図書室(メイ・パラディース)で、一人で本を読んで得た知識が教授の説明でどんどん、色鮮やかに記憶の中に肉付けされて上書きされていく。

授業が終わった時、もう終わってしまったのかと残念に思ったくらいだった。


授業が終わったとたん、ジェニファーが頭をかかえてうめく。

「たったの1時間で、ランドール建国から一気に数百年の歴史を、年号と同時に叩き込まれると思わなかったわ。覚えられた気がしない。」

「同感ですわ。一度の説明が多すぎますわ。」

エリザベスも、とんとんと額をたたきながら、うなずいている。


ふと、自分に違和感を覚えた。

オバレー教授が説明した年号と出来事がすべて頭の中に入っている。

他の人はそうではないのだろうか?

夢中になりすぎたので、そんな気がするだけ、かも。明日には忘れていたりして。


私は軽く首をふる。

さて、次の授業は何だったかしら。




 1学年の前期の授業は、午前中に一般教科が多く、魔術関連は午後に集まっていた。

お昼休みになると、襟のバッジが赤色の生徒、つまり1年生はみんな、青い、げんなりした顔をして昼食をとっている。


エリザベスもジェニファーも、すでに疲れ切った顔になっている。

「詰め込まれすぎて、頭も胸もいっぱい。わたくし、食べられませんわ。」

と、エリザベスはあまり減っていない皿をテーブルの奥におしやる。

それに反し、ジェニファーは、

「疲れたときこそ、無理してでも食べないと、元気になれないわよ!」

と、頑張って食べている。


「初日、お疲れ。」

突然、後ろから声がかかる。

「あら、リュシュー。」

エリザベスが、にっこりと笑う。

リュシュリュウ・ライドレーと、彼と同じ緑のバッジを付けた男性生徒2名が立っている。

「リズ。食べてないじゃないか。食べたほうがいいよ?」

「疲れて食欲がないのですわ…。」

「うん。わかるよ。でも、午後は魔術関連だろう?体力を使うから、食べたほうがいい。」

エリザベスはため息をつきつつ、食事を再開する。


「ダングレー、君はあまり顔色が悪くないね?」

リュシュリュウに言われて、目をぱちぱちさせた。

「あまり疲れていないので…」

とたんに、リュシュリュウの隣にいた一人の男子生徒が、ひゅーと口笛を鳴らす。

「すげえな。初日って、むちゃくちゃ詰め込まれて、ぐったりするやつばっかりなのに。もしかして、入学前にものすごく詰め込み授業をやられたクチ?」

「言葉が悪いよ、マーク。」

リュシュリュウがマークをたしなめながらも、2名の生徒を紹介してくれる。

「マーク・ケンドルと、ダニエル・クックレー。」

「エリザベス・アークレーですわ。こちらが、ソフィア・ダングレーと、ジェニファー・クリス。よろしくお願いいたしますね。先輩方。」


ジェニファーがケンドルの名前を聞いて、ケンドルに話しかけている。

「失礼ですが、南方地方のケンドル農園の方でしょうか。」

「そうだけど、君はクリス商会の?」

「はい、クリス商会の次女です。ケンドル農園には大変お世話になってます!」

「こちらこそ、クランベリーやリンゴをたくさん買ってもらって、助かってる。」

「ケンドル農園の果物は最高ですから!」

エリザベスも興味深そうに話を聞いている。

「わたくし、クランベリーが大好きですけど、ケンドル農園のが最高なのです?」

「あら、リズ、知らなかったの?我が国で一番良い果物を栽培している農園よ?王室にはいろいろうちの商会から納めているけど、クランベリーはケンドル農園のだけを納めているのよ。」


その時、肩を軽くたたかれた。リュシュリュウだ。

「話、戻すけど、詰め込み授業に慣れていたの?」

「いいえ。授業をちゃんと受けるのは初めてです。でも、どの授業もとても面白くて、夢中になって聞いてしまったので。とても楽しくて興奮しているので、今は疲れたと思っていないのだと思います。」

「ふうん…」


「まあ、楽しかったのなら、良かったよ。貴重な昼休みを邪魔しちゃったね。午後からも頑張って。おい、マーク、そろそろ移動しよう。次はスナイドレー先生だ。遅れるとやばいぞ。」

「そうだね。行こうか。…クリスさん、また話ができるとうれしい。では。」

3人が連れ立って去っていく。

不思議なことに3人が歩いていくと、前方にいた生徒たちが道を譲る。


「さすが、Aクラスですわ。」

エリザベスがためいきをつく。

ジェニファーがびっくりして聞き返す。

「あら、あの3人の先輩方、Aクラスなの?」

「ええ。リュシーから聞いたわ。4年生のAクラスは7人しかいないみたい。

あとね、バッジでクラスがわかるわよ?学年を表すバッジは、左襟についているけれど、クラスを表すバッジは右襟についているの。私達はまだそのバッジがないけれど。

Aクラスは金、Bクラスは銀、Cクラスが銅、Dクラスは灰色。」


エリザベスの説明を聞いて、つい、周囲を見回してしまった。

なるほど、赤バッジ以外の生徒は反対側の襟にもう一つバッジが付いている。

金と銀は少なくとも周りに見当たらなくて、銅と灰色ばかりだった。



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