籠城戦5
炎と爆風が収まった後、マジェントレー公爵が立っていた場所は大地が深くえぐれ、何も残っていなかった。布切れひとつも。
屋敷の結界も破壊され、その威力が如何に凄かったかを、物語る。
幸い、結界は破壊されたが、屋敷は無傷のようだ。ありがたい。
自分と一緒に来た魔術師も、幸い、即死は免れた。魔術学院の生徒が送ってきた守りの魔法陣を持っていたからだろう。瀕死の状態だが、ソフィアのポーションを使えば、大丈夫のはず。
彼らにポーションの瓶を渡して飲ませる。
顔色は良くないが、立てるようになった3人に周囲の調査を指示し、自分も周りをゆっくりと注意深く、見て回る。
「死んだ、のか?」
マジェントレー公爵ほどの魔術師があっさりと自死するとは考えにくいけれど、転移魔術を行使した跡はない。
また、爆発の規模からして跡形もなく消滅したと考えても、おかしくはない。
プライドの高い彼が自分の亡骸を残したくないと考えたとしても、納得はできる、のだ。
「念のため、国内の継続調査は必要だが、杞憂は消えた、と考えても良さそうだな。」
ほぼ、9割、死亡だろう。
仮に残り1割の可能性で生きてどこかに転移できていたとしても、無傷ではないはずだ。
テラ・イーラで魔力を大幅に使った上、彼の渾身の雷撃が倍で返ったのだ。ダメージが大きいはず。そこに、爆散の魔術を使えば、普通なら生きていられない。魔力も枯渇しただろう。
「やっと、終わった、かな?」
風が、フィロスの頬を、くすぐる。
ああ、故郷の匂いだ。
ソフィアの、居るところ。
私の帰るところ。
「フィロス!」
屋敷から、少女が駆けてくる。
紺色の髪が風にひるがえって。
金色の瞳が、太陽のように輝き。
フィロスは、彼女を、抱きとめた。
最終回まで残り1話となりました。