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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院5年生
170/172

籠城戦4



「一体、何なのだ!この屋敷は!」

マジェントレー公爵の怒鳴り声が、炸裂する。


目の前の屋敷は、先ほど、自分が放ったテラ・イーラの攻撃で確かに大いに揺れ、崩れるはず、だった。

テラ・イーラは、局地的に地震を引き起こすエネルギーを持つため、膨大な魔力を必要とし、誰でも使える魔術ではない。

彼とて、1日に何度も放てる魔術ではないのだ。


それなのに、地震で崩れるはずの屋敷が、突然、白く輝いた。

そして、屋敷に根が生えてその根が土中深くに根を下ろした?ように、見えたのだ。

今、屋敷は崩れることなく、最初に見たその時のまま、無傷でそびえている。

いや。無傷どころか、建物が硬化したようにすら見える。


「彼女は隠し部屋から引きずり出さねば、殺せん、ということか…。」


マジェントレー公爵は馬鹿ではない。

魔術庁長官として君臨し、すでに100年以上経っている。

この屋敷自体が大掛かりな魔術道具と、正しく、看破する。


「厄介だのう。さて、どうするか。今は、諦め・・?」


とっさに、反射的に、跳躍する。

さっきまで立っていた場所が焼け焦げている。

雷撃か、炎弾の攻撃か。


彼は屋敷の結界の壁を背に、3方を魔術師騎士に囲まれていることに気づいた。

全員、魔術剣を彼に向けていつでも攻撃できる体形だ。

正面に立つ相手の顔を見て、顔を歪める。


「スナイドレー公爵。」

「マジェントレー公爵。国王から、あなたに逮捕状が出ている。」

「ふん。それが、なんだ?」

「おとなしく、我らと来ていただきたい。」

マジェントレー公爵は、そっぽを向く。

「それにしても、なぜ、わしがここにいるとわかったのかのう?ここには誰もいないはずじゃったが?」

「この屋敷は私の屋敷だ。結界に触れれば、侵入者があったと気づくのは、当たり前ではないか。まさか、それがマジェントレー公爵とは思わなかったが。」

「なるほど、なるほど。自分の屋敷なら、転移魔術陣も、あるわな。」


マジェントレー公爵が顎髭を撫でながら、ふむふむと、頷く。

飄々としているマジェントレー公爵に、周囲の緊張がほんの少し、緩む。

その隙を逃す、マジェントレー公爵ではない。

手にした杖を頭上に高く掲げ。


雷撃(フルメンサイド)!全てを引き裂け!!」


金色の雷撃が、3方を囲む魔術師騎士に降り注ぐ。


「ぐっ!」「ぎゃっ!」

悲鳴が、重なる。


その悲鳴の声の、ひとつは。

マジェントレー公爵が、胸元を苦しげに掴んで、ヨロリと一歩前に歩を進める。


豪華なマントは焼け焦げ、白煙がくすぶっている。

足元には、折れた杖。

その眼には、信じられない、という色が浮かんでいる。


その彼に、無傷でゆっくり近づいてくる男性。


「…のう、スナイドレー公爵。最後に、わしに教えてほしいことがあるのじゃが。」

「なんだ?」

「今のは、魔術攻撃を、反射したのだな?」

「…そうだ。」

「そうか…。」


マジェントレー公爵の頭の中のモヤモヤが、晴れていく。


「そうか。攻撃を反射するなら、貴様を攻撃した魔術師達が全員、死んだのも納得できるわ…。」

「…。」

「教えろ。」

「何?」

「わしは自分が知らない魔術があることに我慢ができん。頼むから、教えろ。どうやって、反射している?」

「おまえには、無理だ。」

「何?なぜだ。わしの魔力はお前より多い。わしの魔術は300年以上の経験がある。たかだか、数十年のお前とは掛けた年月が違う。お前にできて、わしにできぬわけが、ない。」

「それでも、無理だ。この魔術は、私が生み出した魔術ではない。ソフィアが命をかけて、私のために生み出した魔術だ。私を護っているのは、ソフィアの愛、そして、命そのもの。…お前には、自分の命を投げ出して自分を愛してくれる者が居ない。この魔術は、お前には手に入らない、魔術だ。」


マジェントレー公爵の顔が怒りで赤黒くそまっていく。

「愛だと?自分以外に差し出す命、だと。ふざけるな!自分を最も愛するのは、自分であり、自分の命以上に大事なものは、ないっ。」

「だから、お前には無理だ、と、言っている。」


マジェントレー公爵の目が大きく見開かれ、突然、カラカラと笑い声が響く。


「無理。無理。か。このわしが。この、稀代の魔術師と言われたわしに、無理、と言うか。」

笑い声が、止まらない。


爆散せよフレイム・フランギトゥル!!」


マジェントレー公爵が大音響とともに、炎を吹きあげ、爆発した。



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