籠城戦4
「一体、何なのだ!この屋敷は!」
マジェントレー公爵の怒鳴り声が、炸裂する。
目の前の屋敷は、先ほど、自分が放ったテラ・イーラの攻撃で確かに大いに揺れ、崩れるはず、だった。
テラ・イーラは、局地的に地震を引き起こすエネルギーを持つため、膨大な魔力を必要とし、誰でも使える魔術ではない。
彼とて、1日に何度も放てる魔術ではないのだ。
それなのに、地震で崩れるはずの屋敷が、突然、白く輝いた。
そして、屋敷に根が生えてその根が土中深くに根を下ろした?ように、見えたのだ。
今、屋敷は崩れることなく、最初に見たその時のまま、無傷でそびえている。
いや。無傷どころか、建物が硬化したようにすら見える。
「彼女は隠し部屋から引きずり出さねば、殺せん、ということか…。」
マジェントレー公爵は馬鹿ではない。
魔術庁長官として君臨し、すでに100年以上経っている。
この屋敷自体が大掛かりな魔術道具と、正しく、看破する。
「厄介だのう。さて、どうするか。今は、諦め・・?」
とっさに、反射的に、跳躍する。
さっきまで立っていた場所が焼け焦げている。
雷撃か、炎弾の攻撃か。
彼は屋敷の結界の壁を背に、3方を魔術師騎士に囲まれていることに気づいた。
全員、魔術剣を彼に向けていつでも攻撃できる体形だ。
正面に立つ相手の顔を見て、顔を歪める。
「スナイドレー公爵。」
「マジェントレー公爵。国王から、あなたに逮捕状が出ている。」
「ふん。それが、なんだ?」
「おとなしく、我らと来ていただきたい。」
マジェントレー公爵は、そっぽを向く。
「それにしても、なぜ、わしがここにいるとわかったのかのう?ここには誰もいないはずじゃったが?」
「この屋敷は私の屋敷だ。結界に触れれば、侵入者があったと気づくのは、当たり前ではないか。まさか、それがマジェントレー公爵とは思わなかったが。」
「なるほど、なるほど。自分の屋敷なら、転移魔術陣も、あるわな。」
マジェントレー公爵が顎髭を撫でながら、ふむふむと、頷く。
飄々としているマジェントレー公爵に、周囲の緊張がほんの少し、緩む。
その隙を逃す、マジェントレー公爵ではない。
手にした杖を頭上に高く掲げ。
「雷撃!全てを引き裂け!!」
金色の雷撃が、3方を囲む魔術師騎士に降り注ぐ。
「ぐっ!」「ぎゃっ!」
悲鳴が、重なる。
その悲鳴の声の、ひとつは。
マジェントレー公爵が、胸元を苦しげに掴んで、ヨロリと一歩前に歩を進める。
豪華なマントは焼け焦げ、白煙がくすぶっている。
足元には、折れた杖。
その眼には、信じられない、という色が浮かんでいる。
その彼に、無傷でゆっくり近づいてくる男性。
「…のう、スナイドレー公爵。最後に、わしに教えてほしいことがあるのじゃが。」
「なんだ?」
「今のは、魔術攻撃を、反射したのだな?」
「…そうだ。」
「そうか…。」
マジェントレー公爵の頭の中のモヤモヤが、晴れていく。
「そうか。攻撃を反射するなら、貴様を攻撃した魔術師達が全員、死んだのも納得できるわ…。」
「…。」
「教えろ。」
「何?」
「わしは自分が知らない魔術があることに我慢ができん。頼むから、教えろ。どうやって、反射している?」
「おまえには、無理だ。」
「何?なぜだ。わしの魔力はお前より多い。わしの魔術は300年以上の経験がある。たかだか、数十年のお前とは掛けた年月が違う。お前にできて、わしにできぬわけが、ない。」
「それでも、無理だ。この魔術は、私が生み出した魔術ではない。ソフィアが命をかけて、私のために生み出した魔術だ。私を護っているのは、ソフィアの愛、そして、命そのもの。…お前には、自分の命を投げ出して自分を愛してくれる者が居ない。この魔術は、お前には手に入らない、魔術だ。」
マジェントレー公爵の顔が怒りで赤黒くそまっていく。
「愛だと?自分以外に差し出す命、だと。ふざけるな!自分を最も愛するのは、自分であり、自分の命以上に大事なものは、ないっ。」
「だから、お前には無理だ、と、言っている。」
マジェントレー公爵の目が大きく見開かれ、突然、カラカラと笑い声が響く。
「無理。無理。か。このわしが。この、稀代の魔術師と言われたわしに、無理、と言うか。」
笑い声が、止まらない。
「爆散せよ!!」
マジェントレー公爵が大音響とともに、炎を吹きあげ、爆発した。