籠城戦3
「グレイス!地震?いえ、攻撃よ!」
揺れで立っていられず、膝をつく。
「グレイス!屋敷が崩壊する?部屋から出ないと、危ない?」
「落ち着かれませ。ソフィア様。わたくしめは、この部屋の主をお守りするために作られた魔術具。そして、この屋敷はこの部屋の主をお守りするために作られた屋敷。屋敷自体も大きな魔術具なのです。わたくしめの防衛はこの屋敷全てに及びます。ご心配なされまするな。主がこの部屋にいる限り、絶対に、御身の安全を保証いたします。」
グレイスが、私に両手をそろえて差し伸べてくる。
「ソフィア様、わたくしめに、魔力を注いでくださいませ。この屋敷の防衛機能を動かします。」
「え?こう?」
グレイスの両手に手を重ね、魔力をこめる。
ずわっと吸い取られる感じがして、一瞬、驚く。私の魔力の半分くらいを持っていかれた感じだ。
グレイスが私から手を放すと、グレイスの身体が白銀に光り出す。
「。静まれ大地。根を張れ。鋼鉄の守り」
ズン、と、屋敷が、大地にのめりこんだ、ような気がした。
揺れもだいぶおさまっている。まだ微かに揺れが残っているけれど。
「え?グレイス?何をしたの?」
「大地の怒りを鎮め、この屋敷を地面に縫い留め、屋敷に鋼鉄の守りを掛けました。」
「はい?」
何を言っているか、よくわからない。
「テラ・イーラ。フローラ様の時代に較べると、現在の魔術師の威力は大したことございませんね。」
「フローラ様の時も、この攻撃を受けたの?」
「何度もございましたよ。奥方様がどこに隠れているかわからない。ぐずぐずしていたら、公爵が帰ってきてしまう。ならば、屋敷ごと崩せ、と、ね。」
「そう、なの?」
「あとは、インフェルノ。業火。屋敷ごと燃やせ。なんていう攻撃もありましたねえ。そうそう、メテオノール…隕石が降ってきたことも。」
うふふ…と、グレイスが、笑う。
「…壊させませんわよ。わたくしめが、ここに、居る限り。」
グレイスの視線が壁に向く。
壁に映し出されたのは、私の部屋。
その部屋の窓から見下ろせば、堂々とした態度で白髪を風になびかせた恰幅が良い男性が立っているのが見えた。
豪華なローブ。
手にしているのは宝石の付いた杖。
たぶん、彼が魔法庁長官マジェントレー公爵だと、直感する。