フィロスの任務
フィロスは、反乱軍の指揮を執る貴族とその護衛の魔術師を暗殺することを、ハッカレー学院長から命じられていた。
一番始めに制圧に行った時は、どれほど守りの魔術具の効果があるのか不安だったけれど、その不安は、一瞬で吹き飛んだ。
最初の反乱軍には5人の魔術師がいて、ほぼ同時に魔力で攻撃してきた。
とっさに避けようと、反射的に身体が動いた。
でも、動いたか動かないかのところで、5人が一斉に倒れたのを見たときは、自分でも驚いた。
指揮官の貴族を拘束した後で、倒れた魔術師全員を調べてみれば、間違いなくそれぞれが放った魔力でやられていた。
それも、彼らには放出できそうにない、威力で。
倍にして返す。
と、ソフィアが言っていたが、どうやら、その通りのようだった。
彼らは一撃必殺で、本気でフィロスを殺すための魔力を放ってきた。
当たり前だ。ここは戦場なのだから。
まともに当たったら、フィロスといえど、死ぬか、それに近い重傷を負う。
そんな威力の魔力が倍で返っていったのだ。
全員、一撃で死亡するのも、当たり前。
フィロスは、ため息をつく。
ソフィアはどれだけの犠牲を払って、この守りの魔術具を作り上げたのだろう。
彼は、知っている。
世に二つとないような魔術具を作るためには、大きな代償が必要なことを。
たった1本の魔毒剣を作るために、10人以上の魔術師の命が必要なように。
ソフィアは、ほぼ死んだ状態で戻ってきた時に何があったのかを、絶対に教えてくれなかった。
どんなに聞いても、覚えていない、の、一点張りで。
この赤いピアスに手を触れれば、じんわりと、温かい力を感じる。
ソフィアの、命だ。と、無条件で感じる。
ソフィアの命が、愛情が、自分を、守ってくれている…。
もう少しだ、もう少しで、戦争は、終わる。
マジェントレー公爵の失脚も、まもなくだろう。
そうしたら、もう、君も安全だ。
学院卒業まで、あと1年。
卒業の翌日、結婚しよう。ソフィア。
そして、君を、私は二度と、離さない。