ライドレー侯爵1
ライドレー侯爵は、5人の魔術師に囲まれて、馬上に居た。
今、彼は反乱の狼煙を上げて、首都目指して進軍している。
集めた兵士の数は1万5千。自領の私兵だ。精鋭を集めている。
道を埋め尽くす兵士に周囲を囲まれ、ゆっくり進軍しながら、思い出すのは、愛した息子、リュシュリュウ。
我が儘を言わない、良くできた息子だった。
幼い頃から強い魔力を持っていたので跡継ぎとして厳しく育てたにも関わらず、真っすぐ育ってくれた、と思う。
魔術学院でも6年間首席を通した、自慢の息子だった。
その息子が、ある日、最初で最後の我が儘を聞いてほしいと、言ってきた。
ソフィア・ダングレーを妻に迎えたい、と。
私は驚愕した。
ダングレー?
駆け落ちしたという、ふしだらな女の娘?
両親ともに亡くなり、祖父が養女として迎えたのは知っていた。
その、ダングレー?
我が家は、仮にも8家の一つ、4侯爵の端くれだ。
初めは反対した。
しかし、彼は珍しく、引き下がらなかった。
私はソフィアについて調べさせた。そうしたら、魔力が豊富で学年1、2位を争う才女だとわかった。
私は、初めて、我が儘を言った息子の願いを叶えることにした。
しかし、ダングレー侯爵家に婚約の申込みに行けば、夫人から許嫁がいると断られ。
その後、その相手がスナイドレー公爵と聞いて、相手が悪い、諦めるようにと息子に諭さざるをえなかった。
その息子が、殺された。
マジェントレー公爵が教えてくれたところによれば、ソフィアを諦めきれなかった息子が、ソフィアに連れて逃げるところを、ハッカレー公爵とスナイドレー公爵が2人がかりで追い詰めたという。2人がかりでは剣の名人であった息子も力及ばず、殺されたと聞いた。
すんなり、それを信じる事ができたのは、ソフィアの母親が元々、スナイドレー公爵の許嫁だったことを知っていたからだ。
更に、ダングレー侯爵家に申込みに行ったとき、頑として相手を教えなかった夫人の態度からも。
恐らく、ソフィアは、母親の代用品。
であれば、スナイドレー公爵の冷酷非情な性格を考えると、ソフィアに母親と同じように振る舞うことを求めていたと考えられる。
それに、彼女は耐えられず、息子にすがったのだろう。
親馬鹿かもしれないが、息子は女性にもてた。ソフィアがひそかに息子に恋情を抱いていたとしても不思議ではない。
息子が、許嫁が居ることを知ってもソフィアを諦めていないことには、気づいていた。
結婚してしまえば諦めるだろうと、見て見ぬ振りをしたのが、悔やまれる。
自分が今、挙兵したのも、マジェントレー公爵の頼みだから、というよりも、スナイドレー公爵への息子の敵討ちの意味合いが大きい。