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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院5年生
160/172

戦局



「プケバロスの奴ら、情けなすぎるっ!」

マジェントレー公爵は戦況を報告するレポートをぐしゃぐしゃに握りつぶし、暖炉に投げ込んだ。


戦局が開かれて、すでに1か月が過ぎた。


プケバロスが開戦すると同時に、国内のあちこちから反乱軍の兵を挙げさせ、国境に向かっていた兵士を分けることに成功したので、最初の頃は、プケバロスが優勢に立っていた。数の力で押してきていたのだ。


ところが、反乱軍は首都ランズに到着する前に次々と破られ、反乱軍を指揮させていた貴族が全員、捕まった。彼らには誓約魔術をかけているので、取り調べで自分の名前が出てくることはないだろうけれど、口封じのために自分の部下を潜り込ませている。近日中には報告が来るだろう。


反乱軍は反乱ののろしをあげて、10日も経たずに、すべて制圧された。

計算外だ。

いくらなんでも、ありえない。

おかげで、反乱軍制圧のために向かっていた兵士が全員またすぐに国境へ戻っていってしまったため、プケバロスを押し返すことに成功している。


しかも、戦場に立つ魔術師団員に欠員が一人も出ていない。

1か月も戦っていて、本来、こんなことはあり得ない。

その原因が、ランドール国立魔術学院だ。

次から次へと途切れることなく届く、治癒のポーション。

そして、守りの魔術陣までも。

どちらも、学生が作ったものとは思えないほど、レベルが高い。当然、効果も高い。


さらに言えば、魔力を持たない普通の兵士たちも元気いっぱいだ。

「栄養補完バー」なるお菓子が山のように配られ、これがおいしいと好評なだけでなく、体力増強および、疲労回復、あと、少しだけれど怪我の治癒力を高める効果がある。

その原因も、ランドール国立魔術学院!


おかげで、連戦連勝のニュースに我が国は沸き立っている。

もう少しで、プケバロスに勝てる、と。


学院の後方支援を潰したくても、今、サピエンツィアには何人も入れないし、出られない。

これは戦争になったら次代の魔術師は絶対に守るべし、という王国法により、学院都市が完全に市井と隔絶されるからだ。

戦争が終わるまで、生徒達は帰宅も許されなくなる。


予め、味方にしておいたサピエンツィアの魔力を持たない市民に連絡を取ろうとしても、取れなくなった。おかしいと思っていたら、学院の生徒達が学院の地下牢に連行したという。

急ぎ調べれば、学院の生徒達が自発的に警護団を作っていた。


ふざけるな。一体、今の学院は、どうなっているのだ!



さらに、マジェントレー公爵の計算違いは、戦が始まると同時に反乱軍が首都を囲んだら、王家の人間の周りの警備が薄くならざるを得ないので、魔術庁長官である自分が護衛に呼ばれると踏んでいたのに、全くそうならなかったことだ。

しかも、第一王子は王宮に居ない。

必死で探させているが、どこにいるか、皆目、つかめていない。


ギリギリと歯ぎしりをして、ののしる。

「おのれ。ハッカレー!!!」


今、王宮の警備はハッカレー学院長が自ら勤めていた。王のそばにいつも控えていて、隙が無い。

ハッカレーとはまともに戦っても、勝てる保証はない。

五分五分だろう。


学院の生徒に後方支援するよう指示したのも、あいつだろう。

あの、老いぼれ学院長が。

そうでなければ、次々と物資が送られてくるわけがない。

戦場に渡らないようにしたくとも、学院と魔術師団、魔術師団と戦場の間に転移陣が作られているため、転移陣を壊さない限り、妨害できない。

学院には入れないし、学生にやらせようとしたら失敗するし、魔術師団の転移陣はどこにあるか掴めていないし!

転移陣の破壊も絶望的だ。


今のところ、反乱軍やプケバロスを煽っていたのが自分だという証拠は無い。

また、王家一家の暗殺を企んでいる証拠も無い。そもそも、まだ暗殺していないのだし。


だが、このままでは、まずい。

プケバロスが敗けた場合、プケバロス王が自らの保身のため、自分の密書が国王に渡される可能性が高い。

その密書には、プケバロスが勝ち王家が自分の孫王子以外全員死に絶え、自分が孫王子の摂政となったのちにプケバロスに渡す利益について約定した内容が書いてある。

この国が勝利し、国王一家が無事であったら、8家筆頭の自分でも破滅するのは火を見るより明らかだ。


そもそも、なぜ、あれほど多く蜂起した反乱軍が一気に鎮圧されたのだ?

兵士共はわからんでもない。平民の兵士共は魔術師に敵うわけがないからな。

だが、首都ランズまで集まってくれれば、首都を護る兵士は魔力を持たない者が多いから、十分、戦闘になるはずだったのだ。

魔術師団の騎士はほぼ全員、国境に向かっているから、首都に残っている魔術師の戦力はそれほど脅威ではない。

それが、首都にたどり着く前に全滅だ。

襲撃者はなぜ、大勢の者に守られていたはずの指揮者の貴族をやすやすと逮捕できたのだ?

なぜなら、彼らには自分の配下の魔術騎士で周りを固め守らせていた。それなのに。

配下の魔術騎士は全員殺された。ありえない。

彼らは自分の切り札。

今まで温存していた力の強い魔術師ばかりだった。

わしの知らない強大な魔術師が居るのか?

背筋に、ぞくっと冷や汗が流れる。


「残るは、ライドレー侯爵の反乱か…。」


リュシュリュウ・ライドレーはソフィアの誘拐に失敗した。

それがわかった時点で、知りすぎているリュシュリュウの暗殺は決定事項だった。

あらかじめ、リュシュリュウが収監される牢屋にひそかに配下の魔術師を入れておき、リュシュリュウが入牢した直後に、刺殺させた。

この魔術師もすでに居ない。刺殺後、自死させ死体も消滅するよう魔術陣を書いておいたから。

息子が死んだことを知ったライドレー侯爵には、その原因がソフィアへの悲恋であり、2人の仲を裂き、逮捕したのがスナイドレー公爵で、バックにはハッカレー学院長が居ることを、ささやいておいた。

それだけで、彼は自分を疑うことなく、反乱を起こすことを約束してくれている。

ライドレー侯爵は8家の一人なだけに、私兵の規模が万単位で大きい。

首都にさえ攻撃をかけてくれれば、王宮に隙ができるだろう。

それに賭けるしか、ない。



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