誘拐7
「学院も安全ではない、か。」
フィロスが顔をしかめて、つぶやく。
牢には看視用の魔術具があり、学院長室に音声付きで映像が送られてきている。
「ソフィアに何か、マジェントレー長官がらみで、ぽろっと、こぼしてくれないかなあ、と期待したけれど、無理そうだね。」
学院長がお茶を飲みながら、つぶやく。
「ソフィアを迎えに行ってくる。今日は、予定通り、休ませる。」
「了解。」
私は迎えに来てくれたフィロスと一緒に、ステラ塔のフィロスの部屋に戻った。
まだ早朝。誰も生徒は起き出していない。
「フィロス。リュシュー先輩はどうなるの?」
「とりあえず、誘拐と婦女暴行未遂で魔術師団の牢に入れられる。」
「それくらいなら、すぐ、出られる?」
「マジェントレー魔術庁長官について何か知っていることが無いか調べられるだろうが、8家の一人だからな。束縛できるとしても、せいぜい、2週間、か?君に対しての罪は、未遂に終わったこともあり、懲罰が軽いだろう。おそらく、罰金と自宅内軟禁、数か月から半年くらいが良いところだ。」
ほっとして、肩の力を抜く。
「そんなことより、君の今後についてだが…。学院内で、君に護衛を付けたいが、どうするかな?」
「は?護衛?…学生に護衛なんて、聞いたことないわ。」
「だが、危険だ。今回は誘拐が目的だったから眠らされただけで済んだけれど、殺害が目的なら、とっくに君は死んでいる。」
ぐっと、詰まる。
「学院長も何か考えるだろうが…。とりあえず、当分は絶対に1人になるな。ステラ塔から校舎までは私が送迎する。授業が終わったら、私の執務室に来なさい。夕食が終わったら、送り届ける。」
「えええ…。皆さんと、放課後、ポーションの改善で話し合っているのに?」
「ソフィア。」
フィロスが真剣に、すがるように、私に言う。
「頼む。君の楽しみを奪うのは心苦しい。だけれど、本当に、君を失いたくないんだ。私の敵が持つ人脈や力は強大だ。教授や学内で働く者の中にも敵がいるかもしれない。私のために、頼むから、今は、身の安全を第一に過ごしてくれ。」
唇を噛んだ。
私とてフィロスの足手まといにはなりたくないし、悲しませたくない。
「わかったわ…。できるだけ、リズと一緒に居る。」
「できれば、モントレーとも。」
「あら?異性と2人は許さない、んじゃなかったの。」
「モントレーなら、信用できる。…護衛の腕も。」
苦渋に満ちたフィロスの表情に、本当に自分の命が危ないことを感じた。
リュシュー先輩の警告を、甘く、考えていたようだ。