誘拐6
数時間後、まだ夜も明けない時間帯に、目を覚ました。
「ソフィア?まだ夜が明けてない、もう少し眠りなさい。」
フィロスがベッド脇に座って、見守ってくれていた。
ちいさくかぶりを振って、起き上がる。
「リュシュー先輩に会えますか?」
フィロスが、顔をしかめる。
「会う必要は、無い。」
「聞いてみたいんです。なんで、こんなこと、したのか。」
フィロスが、ため息をつく。
「あと数時間したら、ライドレーは別の場所に移されるが、今は学院長のいるソル塔の牢に入っているはずだ。」
行く前に着替えなさい。と、自室に連れて行ってくれる。
着替えが終わったら、フィロスと一緒にソル塔に向かった。
学院長は意外とあっさり、リュシュー先輩との面会を許可してくれた。
フィロスは嫌がったが、2人きりでの面会を。
「ソフィア。」
牢の鉄格子の向こうのソファに、リュシュー先輩は座っていた。
牢と言っても、鉄格子が無ければ普通の客室みたいな感じだ。
ソファ、ティテーブルといす、ベッド。
ただし、牢の扉には魔術封じの札。久しぶりに見た。
この札が張られている以上、リュシュー先輩は魔術が使えない。
どうりで、学院長が面会を許可してくれるはずだ。
「聞きたいことがあって、来ました。どうして、わたくしを攫ったのですか?」
リュシュー先輩が、ふっと微笑む。
「君を妻にするために。愛しているから。」
「そんなの、愛情、じゃない…。」
「いいや。僕にとってはそれも、愛だ。僕は君を手に入れたかった。無理やりでも既成事実を作って、妻に迎える。妻になれば、時間がすべてを解決して…、いつかは愛してもらえるかもしれない。」
「仮に、そんな形で一緒にされたとしても、わたくしがあなたを愛することは絶対にありません。」
「・・そうだね。ソフィア。君なら、そうかもしれないね。」
上を向いて、リュシュー先輩がふーっと息を吐く。
再度、私を向いた彼は真顔になっていた。
「君とはもう2度と会えないだろう。ソフィア。
愛する君に最後に教えてあげる。君はとても危険な立場にいる。スナイドレー教授の弱点が君だからね。暗殺者がこれから何度も君を狙うだろう。学院も決して、安全ではない。警告しておく。」
リュシュー先輩が後ろを向く。
小さなつぶやきが聞こえた。
「…僕は、…君を死なせたくなかった。」
はっとする。
「死なせないために、わたくしを?」
リュシュー先輩が振り返り、笑顔を見せる。学生時代と変わらない笑顔を。
優しくて、頼りになる、先輩だったとき、そのままの笑顔を。
「さようなら、ソフィア。最後に、君とまた会えて良かったよ。そして、君の助けが早かったことに、少し安心もしている。残念だけど、それも本心。でも、謝らないでおく。」