誘拐4
「ん…。」
口の中に冷たい水が入ってくる。清涼なミントのような爽やかな水だ。
ぼんやりと目をあけたら、フィロスの顔がくっつくほど近くにあった。
口移しで水を飲ませてくれていたらしい。
「ソフィア。」
「ん…。」
まだ、頭の中がぼうっとしている。
フィロスが顔を離し、グラスから水を含み、また私の唇をふさぐ。
流し込まれる水がおいしくて、こくこく飲む。
心配そうな、泣きそうなフィロスの顔に、ようやく、意識がはっきりしてきた。
「ここは!?」
「落ち着きなさい。私の部屋だ。ステラ塔の。」
「あ、…そうだ。わたくし、ドメスレーに、何か、香をかがされて?」
フィロスの顔が険しくなる。
「実行犯は、ドメスレー、か。」
「ウルラ」
フィロスの腕にフクロウが現れる。
「学院長。フィロスだ。図書室で眠りの香を使ったのは、アンドリュー・ドメスレー。」
ぶんっと腕を振れば、フクロウがソル塔を目指して飛んでいくのが見えた。
「眠りの香…。」
確かに、花の香りがしたと思ったら、意識が飛んだけれど、でも、なぜ?
ぎゅっと、フィロスに抱きしめられた。その身体がふるえている。
「間に合って、良かった。」
私は意識が無かったので何があったか、わからない。
でも、フィロスが震えているということは、私の命が危なかったのだろう。
「フィロス、わたくし、どうなっていたの?殺されるところ、だったの?」
「眠っていた時のことは知らなくていい。…知る必要はない。」
ぎゅっと唇を噛む。
とても危険なところだったのだろう。でも、私は知っておく必要がある。
なぜなら、また同じことが起こるかもしれないのだから。二度と、そうならないために。
「フィロス。教えて。何があったの?わたくしは知る権利があると、思うわ?」
フィロスを軽く押して、身体を離す。
と、自分の制服のボタンがすべて無くなっていて、制服の合わせからシュミーズが見えていることに気付いた。
「えっ!?」
慌てて、制服の合わせを手で引き寄せてシュミーズを隠す。
「わたくし?」
すーっと、血の気が引くのを感じた。誰かに、凌辱、された?
「ソフィア!」
「わたくし、汚されて…?」
フィロスが、はっとしたように、きつく抱きしめてくる。
「大丈夫だ!未遂だ!」
「うそ…。」
「本当だ!あわや、というところで、間に合った!」
ぼろぼろと涙をこぼす。
本当に、凌辱されていないんだろうか。別に、下腹部には違和感も無い。だけど、私が気付かないだけ?
「おね、がい。何があったのか、教えて?本当のことを。」
フィロスが深いため息をついて、わかった。と言う。