誘拐2
リュシュリュウは、ベッドの上に横たえたソフィアを見下ろす。
ここは、ソフィアと初めて出かけた湖の近くにある自分の別荘。
学院の門からここまで転移してきた。あらかじめ、転移の魔術陣を用意しておいて。使い捨ての魔術陣だから、使った後は消滅する。気付かれる恐れは無い。
今、ここには、自分とソフィアの2人しかいない。
ソフィアが行方不明になったとわかるのは明朝だろう。
すでに門限は過ぎている。自室にいると誰もが思っているはずだ。
明朝には、彼女は自分の物になっている。
自分の物にしてしまいさえすれば、ソフィアは諦めて自分の妻にならざるをえない。
この国の貞操観念は、女性に対していびつな形で非常に高い。
配偶者の死別などによる再婚への忌避はないが、婚姻前に傷物になった女性に対する世間の眼は驚くほど厳しい。
ソフィアの母が学院を卒業した後、市井に下りざるを得なかった理由もそこにある。
本来、学院を卒業し、魔術師として認められれば、平民でさえ貴族位をもらえる。
ソフィアの母が貴族の親から勘当されたとしても、別の貴族位をもらえるはずだったのにもらえなかったのは、未婚の母となったからだ。
貴族位を管理している王宮は、ふしだらと烙印が押された女性への貴族位授与を拒否した。
相手がこの国の貴族だったら、そこまで問題にならなかったかもしれない。
婚約者であれば、婚前交渉であっても目をつぶってもらえる。
この国の貴族だったら、婚約していたと言い張れば言い逃れはできる。
ソフィアの母の場合は相手が悪かった。フォルティス人。フォルティス人に我が国の貴族位を与えることは、絶対に無い。
ソフィアの場合は。
自分が相手だ。問題ない。
4大侯爵の跡取りだ。婚姻の約束ができていたと言えば、すんなり認められる。
妊娠が明らかになる前に婚姻を急ぐよう、言われるだけだ。
リュシュリュウは、しゅるっと自分の首からスカーフを取り、シャツを脱ぎ捨てる。
鍛えられた上半身が薄暗い部屋でもくっきり見える。。
ベッドに横たわるソフィアの上にのしかかった。
「ソフィア。やっと、君を手に入れることができる。…ごめん。君を起こしたいけれど、起こしたら、君の抵抗に手古摺ると、わかっているからね。卑怯だとわかっているけれど…。眠っている間に、僕のものにするね?」