誘拐1
ある日、早めに夕食を食べた後、最近、習慣となっている治癒用ポーションの改善についての研究会を図書室で開いていた。
初めは、薬学魔術で知り合った同級生と活動していたのだけれど、話を聞きつけた上級生や下級生が混じって、今では10人くらいに膨れあがっている。
「この枯火草を精霊草におきかえると、効力が上がらないかな?」
「枯火草は火の属性だから、精霊草の水に置き換えるわけか。水の方が治癒力は高いけれど、うまくいく?」
「待って、ここで枯火草を使っているのは、傷口を火で焼いて塞いでいるのよ?そこはどうするの?」
「うーん。確かにそう言われればそうだなあ。」
「傷をふさぐ、水の属性の薬草ってあったっけ?」
みんなと討論するのは、意外な視点があって、楽しい。
門限近くになれば、みんな、また明日、と少しずつ、寮に帰っていき、私は一番最後に持ち出した本を書棚に戻すため、立ち上がった。
もう、図書室には誰もいないようだ。
本を書棚に戻しているとき、何か花のような香りがふわっと漂ってきた。
誰か、図書室に入ってきたのだろうか。数は少ないけれど、香水を使っている女生徒もいる。
気にせず、次の本を別の場所に戻そうと足を動かしたら、くらっと眩暈がした。
「まさか…。」
周囲を見回すと、ハンカチで口元をおさえたアンドリュー・ドメスレーが手に何かを持っているのが見えた。
眩暈がひどくなり、膝をつく。
「毒?」
胸元を必死で握りしめる。
パキッと小さな音がしたのを最後に、私は意識を手放した。
「うまくいった。」
アンドリューは倒れた彼女のそばの本を適当に書棚に突っ込み、彼女をマントでくるんで抱き上げる。
このマントは認識阻害が掛かっている魔術具のため、万一、誰かとすれ違っても薄暗い構内では見えないだろう。
それでも、人に見られる前に、学院の門まで急がなければならない。
アンドリューはソフィアを抱えて学院の門まで走った。
幸い、誰にも会わなかった。
「アンディ、こっちだ。」
門の外にリュシュリュウが立っている。
「リュー先輩!」
リュシュリュウに、マントにくるんだソフィアを渡す。
「がんばったな。アンディ。ありがとう。…すぐ戻れ。門限に間に合うように。」
「リュー先輩も気を付けて。閣下によろしくお伝えを!」
2人は、うなずき合う。
アンドリューは自寮に駆けて行った。