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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院5年生
149/172

戦の足音



 夏休みの間、フィロスと2人で、ほぼ屋敷に閉じこもって生活したけれど、治癒用のポーションの材料を大量に作ったり、例の魔力のみ回復するレシピの改善に2人で頭を悩ませたりしていたら、あっという間に過ぎた。


 フィロスからは、今年中に隣国プケバロスが開戦してくるだろうと、聞いた。

我が国もすでに迎え撃つ準備はできていて、魔術師団も編成が完了しているそうだ。

内部から反旗を翻すだろう貴族の洗い出しも終わり、動き次第、対応できるだけの体制を整えられたそうだ。

 暗殺されるであろう国王一家には、学院長が選んだ魔術師の護衛が張り付いている。

 それでも、念のため、第一王子は戦争になった時に別行動をするという名目で、学院長が用意した場所に匿われている。

今回の騒動の黒幕である魔術庁長官マジェントレー公爵がやっきになって第一王子の居所をさぐっているらしいが、魔術庁長官に匹敵する大魔術師の学院長が幾重にも認識阻害の魔法陣を組んだそうで、まず、見つからないだろう、とフィロスは言っていた。



 後期授業が始まり、学院に戻ってきてみれば、戦争の噂は学生たちにも知れ渡っていて、なんとなく学院内の空気は重い。


学院長から始業式の時に、戦争が始まったら教授達の大半が何らかの形で参戦するため、休講になる科目が増える、だから、今期は授業の速度を上げるという話があった。

ついていけない者がでるのもやむを得ないと、織り込み済みだそうで、休講になってから復習して追いつくように、と。


学院のあるサピエンツィアは戦争が始まれば、封鎖される。

その上、魔力を持たない人間が入ってくることができない特殊な街なので、戦場になることは絶対にない、

だから、君たちは早く一人前の魔術師となることに専念するように、と学院長の話は締めくくられた。


後期授業は、学院長が言ったとおり、すごいスピードで進められていった。

通常、数時間で学ぶ内容を1時間で教えるようなスピードなので、ほとんどの生徒が悲鳴を上げている。

予習をしている私でさえ、講義のメモを執るのが大変なのだ。一般生徒には全くわからないまま進んでいるかもしれない。

このまま10月には全部の講義が終わりそうだ。



 そんな中でも、戦争が現実味を帯びてくると、自分たちでも何かできないかと動き出す学生が増えていった。

攻撃に特化した魔術具を作る、あるいは身を護る魔道具は作れないのか、と研究をしだしたグループ。

治癒用のポーションの改善を研究するグループ。そのリーダーは、私だ。


そして、自らの戦闘力を高めるため、自主訓練をする生徒。これが一番多かった。

1年生の時、戦争が大嫌いだったクレイドル・ミレーも、その一人。

最後まで開戦しないで外交的に決着するべきだ、と言い張っていたのに、最近は黙々と、戦闘魔術の自主訓練を始めている。


夏休みの間に、体力が戻った私はまた、早朝、リチャード、グレー教授、オートターゲットを付けた熊さんとの戦闘訓練を再開していたけれど、いきなり、クレイドル・ミレーが、「混ぜてくれ」と言ってきたときは、びっくりした。


「ミレー?君は血を見るのが大嫌いだったよね?幸い、君は学生で、戦場に出る必要はない。訓練は不要ではないかな?」

グレー教授が驚いて、聞き返したくらいだ。

「私は確かに戦争が大嫌いです。戦場に立つのは今でも、まっぴらだ。だから、学院を卒業したら、外交部門に入って、戦争になる前に外交手腕でそれを止めるつもりでした。でも、この夏休み、私は私なりにいろいろ調べて…。自分の考えが甘いことに気付いたのです。強い抑止力をもっていなければ、舐めてくる国があるということに。強い抑止力を持ち、なおかつ、それを使わないのが、平和な世界への近道だということに。だから、私は、自分も強くなりたい。」



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