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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院5年生
147/172

マーシアの昔話



 フィロスが魔術師師団長と学院長の3人で打ち合わせするため、首都ランズに出かけて行った。

私は2日ほどお留守番だ。

襲撃があるかもしれないので、屋敷になんと魔術師団から魔術騎士が2人も私を護るために来てくれている。

彼らは屋敷に入らず、外で警戒している。

見張りに適したところに姿を隠しているそうで、どこにいるか、私にはわからないけれど。


 さらに、2日くらい、誰も出入りできなくても何とかなるだろう、とフィロスが人も通れない結界を張ってから出掛けて行った。

抜け出したくても抜け出せない。抜け出して、心配かけるつもりはないけれど。





「そういえば、マーシアはフィロスの乳母だったのよね?」

「はい、そうでございますよ。」

「それじゃ、フィロスの子供時代の話、とか聞きたいけれど、ダメ?お父様やお母様はどんな方だったの?」

「そうでございますね。…あまり楽しい話ではないのですけれど。そうですね。お嬢様には知っていただいた方が、良いかもしれませんね。」


マーシアは、少し考えていたけれど、うなずいてくれる。


「少し、長い話になりますので、掛けさせていただきますね。」

スツールにマーシアは座り、話をしてくれた。


「フィロス様の父君は、魔力をお持ちではありませんでした。

父君の弟君が魔力をお持ちで、この方が公爵位を継ぐことに決まっておりました。

ところが、この弟君が魔獣の征伐でお亡くなりになりまして。

その時、すでに、父君は魔力を持たない貴族の令嬢と恋愛結婚されておりましたが、まだご存命だった先代のスナイドレー公爵、フィロス様の祖父君ですね。

この方が魔力を持つ子供を作るように、父君に命令なさいます。

ご存じかと思いますが、8家は魔力を持つ者しか継ぐことができませんので。

父君は反発されましたが、王命で恋愛結婚した夫人と強制的に離縁させられ、魔力を持つ令嬢を妻に迎えさせられました。

そこで生まれたのが、フィロス様です。

生まれながらに魔力をお持ちとわかりましたので、フィロス様はご両親から離され、祖父君の元で、お育ちになられました。

祖父君はご多忙のため、わたくし共、召使に養育をお命じになられておりましたが。

たまに、お顔を合わせた時は、幼子に対しても、大変お厳しい態度を取られた、と記憶してございます。

フィロス様が8歳になられたとき、祖父君が亡くなられたのですが、まだ未成年。

父君がフィロス様が成人されるまで、つなぎの仮公爵を継がれました。

つなぎの仮公爵は、最低限しか権限がございません。

8家の集いに呼ばれることもございませんし、領内のこと、例えば、税率や領規などの変更もできません。ただ、本来の公爵、フィロス様ですね、にそっくり譲るため、現状維持で、領を治めることのみ、許されております。」


そこで、マーシアはため息をついた。


「当然のことでございますが、そのような状況に置かれました、父君はフィロス様を憎悪なさいました。

母君も、子供を産む道具としてしか見てもらえず、しかも、子供は取り上げられ、夫は全く自分のところに寄り付かず、で、気鬱になられて、早々にお亡くなりになっております。

母君が亡くなり、祖父君も亡くなると、父君は最初の奥様と再再婚されました。

最初の奥様も、ご自分を追い出した原因となりましたフィロス様をお憎みでした。

フィロス様はそのような両親の元で育たれましたので、ご両親の愛というものはご存じではございません。

いつも、険しい顔をして、勉強ばかりしていたお坊ちゃまでしたが、その表情がほころぶのが、ソフィア様、あなた様のお母様、リディアナ様と遊ぶ時間だけ、でございました。」


マーシアの瞳がふっと哀しみの色に染まる。


「そのリディアナ様を失った時期は、フィロス様にとって、公爵を継がれたタイミングと重なって、不幸が立て続けといった、最悪な時期でもありました。

魔術学院を卒業すると同時に、正式にスナイドレー公爵を継がれたフィロス様でしたが、継いだ後で、父君が家の財産に手を付け、領地の税金を勝手に上げ、また経費をごまかしていたことが発覚したのでございます。

それは、我が国の貴族法に触れる、大罪でございました。

実の父ではありますが、国王にそれを報告しなければならず…。

それは大罪ですので、父君は断罪され、投獄の後、獄死しております。

義理の母も、父君断罪のとき、自死されました。

両親と許婚の両方を一度に失い、若い身空で、たった一人で、公爵家の大領地を治め、8家としての義務を遂行せねばならなくなったのです。

あの頃の公爵は本当に、ギリギリで生きておられた、と思いますよ。」


マーシアが、私の手を取る。


「ずっとお独りで、誰にも心を許さず、いつも張りつめておられた、フィロス様です。一生、お独りで生きていかれるのだろうと、わたくし共も諦めておりました。

ですから、いきなり、お嬢様をお連れになられたときは青天の霹靂でございました。

でも、お嬢様がいらしてから、フィロス様の表情が柔らかくなったことに、わたくし共は、大変、安堵いたしております。

お嬢様、仕えるものとしては差し出がましいお願いでございますが、フィロス様をどうぞよろしくお願いいたします。」


マーシアの目に、うっすらと涙が光っている。


「マーシア。お話を聞かせてくださって、ありがとうございます。

わたくしが、フィロスの心に空いた穴を埋めることができるかどうか、わかりませんけれど、2人で幸せになれるように努力します。

そして、本当にありがとうございます。フィロスを今まで愛して、守ってきてくださって。

マーシアがフィロスの育ての母で良かったです。」


マーシアの目から涙がどっとあふれてくる。


「お嬢様あ…。」




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