フィロスと学院長
私が学院へ戻った日の朝。
学院長室で、フィロスがハッカレー学院長と面談していた。
「私は当分、諜報活動を中止する。」
「フィロス。それは、その、赤いピアスが原因かね?」
「するどいですな。学院長。その通り。」
「そのピアスから尋常ならざる力を感じるからな。…魔術具のようだが、何の効果があるのかね?」
「すべての魔術攻撃をはじき返す…そうだ。」
「そうだ?お主が作ったのでは、ないのか?」
「ソフィアだ。」
「ふううむ。水の弾丸。…うわっ!」
学院長が放った水の弾丸がフィロスに当たる直前に、自分に返ってきて、頭からびしょ濡れとなり、情けない顔をする。
「本当にはじかれたわい。威力を水鉄砲並みに弱くしておいてよかったわい。」
乾燥の魔術をかけながら、学院長が唸る。
「どうやって、ソフィアは、そのような魔術具が作れたのかね?」
「知らん。…異世界に行ったこと以外は教えてくれぬのだ。」
「ほぼ、死んで、戻ってきたのじゃったな?」
フィロスの顔が、険しくなる。
「その魔術具を見てみたいが、外せないのかね?」
「なぜか、外れん。」
「ふむぅ…。なるほど。であれば、確かに、今、そのような魔術具をお主が持っていることは知られない方が、今後、有利じゃな。…よし、彼らが本格的に動くまで、他の者に探らせよう。ただ、フィロス、お主が動かなくなったら、それはそれで、彼らも警戒するだろう。それが今後、何か影響してくるかもしれん?」
「問題ない。ソフィアの治療のために、そばから離れられない、というのを理由にすれば良い。」
「ほお!冷酷無慈悲なスナイドレー公爵が、親子ほど年下の若い恋人にうつつを抜かしている、という噂が飛び交うのう!」
くすくす、学院長は笑う。
「まあ、良い。そのソフィアだが、もう学院に通って、大丈夫なのか?」
フィロスの眉間の皺がますます深くなる。
「望ましくは、無い。だが、彼女が戻りたがっているから、仕方ない。」
「完治していないということかね?」
「薬の副作用が残っている。出血が致命的だ。血が止まらん。止血剤が効かぬ。」
学院長がふっと、フィロスをやさしく見る。
「それでも、ソフィアの希望を聞いてやる、のか。ずいぶん変わったのお。今までのそなたからは考えられぬのぉ。」
「う…!」
「いやいや、嬉しいことじゃよ。うん。…さて、止血剤が効かぬ、か。では、出血したら、わしのところに連れてくるがよい。傷口を焼く治癒魔術がある。血管を焼いて出血を止める。一時的に皮膚に火傷の痕ができるが、数日程度で綺麗に治るから、まあ、良いじゃろう。」