1カ月遅れの登校
私は始業式が始まってからおよそ1か月遅れで学院へ戻った。
車椅子で教室に現れた私にエリザベスとリチャードが駆け寄ってくる。
「ソフィア!魔力熱にかかったと聞いたわ。もう、大丈夫なの?」
私は怪我ではなく魔力熱にかかって1か月寝込んでいたことになっている。
魔力熱とは、主に魔力持ちの子供がかかる病気で、魔力の暴走が原因とされている。
幼い子供の場合それで亡くなることもあるようだけれど、大人になると魔力の制御ができるようになるので、魔力熱を出すことはほとんどない。
でも、逆に、大人になって魔力熱を出すということは、魔力の制御ができないほど大量の魔力が暴走したことを意味し、命をあっという間に落とす。
「ありがとう。もう大丈夫なんだけれど、1か月近く、寝込んでいたら立てなくなっちゃって。」
少しは、歩けるんだけどね、とエリザベスに笑いかける。
「ソフィア。」
「リチャード、ごめんね。朝の練習に当分、行けそうにないわ。」
「そんなこと、気にするな。…戻るのに、どれくらいかかるって?」
「3週間くらい、リハビリが必要みたい。」
肩をすくめる。
「熱で、筋肉が全部落ちちゃったみたいなの。」
「ああ、そういうことも、あるみたいだな。」
リチャードが頭を掻く。
「リハビリ、協力するぜ?」
「ありがとう。リチャード。でも、オバレー先生が見てくださるって。」
そうなのだ。
なぜか、オバレー先生が放課後リハビリに付き合うと、自ら言ってこられたのだ。
たぶん、スナイドレー教授を私から引き離したいのだと、思う。
今朝、私を寮室まで送ってきたフィロスは、ものすごく機嫌が悪かった…。
「16歳にもなって、魔力熱なんて、よほど、不摂生してたんだろうね。」
アンドリュー・ドメスレーは相変わらず、嫌味たっぷりだ。
「ほんとですわ。ガリ勉もいいけど、自己管理できないなんて、最低ですわ。」
ドメスレーにべったりくっついているライザ・サレーまで、ふん。と馬鹿にしたように追従する。
「君たち、いつまで、しゃべってる。とっくに始業の鐘はなったぞ。ああ、ダングレー。回復したようで良かったな。魔力熱にかかる理由はわかっていないので何とも言えないが、頑張りすぎて疲れが溜まっていたんだろう。今学期はあまり根を詰めるなよ?」
担任のベリル先生が笑顔を見せてくれる。
「はい、先生。」