5年生始業式の欠席
1月10日、5年生の始業式に、私は、戻れなかった。
私の身体は私が思うよりもはるかにずたずたになっていた。
フィロスが稀代の薬学魔術師で無かったら、とっくに死んでいた状態で、帰還したのだった。
フィロスは10代の時から危険な仕事に就いていたため、生死の狭間を何度もさまよった経験があった。だから、自分が生き残るために、あらゆる薬を研究し、実にたくさんの、新たな薬を生み出していた。
それらの門外不出の薬が、私の命をつなぎとめた。
それでも、一度、ずたずたになった内臓、筋肉、骨は無理やり再生しても、もともとの力を取り戻すのに時間がかかる。
その回復を早めるための薬を今も飲んでいるが、学院に戻るまで3週間かかる。とフィロスには宣告された。
3週間といっても、最低限、学院へ戻れるというだけのこと。
その後も、学院内でリハビリが必要だろう、という見立てだった。
3週間、ひとりでぼっちの療養を覚悟していたけれど、フィロスは学院に戻らない。ときっぱり、私に告げる。
薬学魔術は1か月、休講すると。
他の学生に迷惑をかけてしまう罪悪感は消えないけれど、すっかり弱っていた今の私はそれがとてもうれしかった。
全く力が入らず動かなかった身体が1週間ほどで、ようやく1人で座っていられるようになる。
そうなってから、抱き上げてもらい、グレイスに会いに行って心配をかけたことを謝れば、グレイスにもさんざん泣かれてしまった。
「また、わたくしめを一人にされるおつもりでしたか?」
その頃になって、フィロスが、夜、ベッドで眠っていないことに気付く。
私の手を握ったまま、ベッドの横に置いた椅子で、うつらうつらする程度だということに。
私は夜、薬のおかげでぐっすり眠っており、どこにも行かないし、容体も急変する心配はなくなったのだから、私を自分のベッドに移し、この自分のベッドで寝てほしい。と懇願したけれど、フィロスは頑として首を縦に振らなかった。
私から離れるようなお願いをすれば、顔色がすぐに青くなり、悲痛な表情に変わってしまう。
いかに、彼を心配させてしまったのか一目瞭然で本当に心が痛い。
だからといって、このまま睡眠不足が続いたら、フィロスが倒れてしまう。
今の顔色は本当にひどいのだ。
青を通り越して黒ずんできているような気がしてならない。
「フィロス。今夜から一緒に寝て?」
夜、眠る時間になったとき、思い切って声をかけた。
「何を言っている?」
「怪我人を襲うほど、悪い人、じゃないでしょう?」
「おそっ…。当たり前だ。」
フィロスの顔が真っ赤に染まる。
「だったら、このベッド、とても大きいから、一緒に少し離れて寝られるでしょう?」
「…だめだ。」
まだ力が入らない身体に無理に力を入れて、起き上がる。
「ソフィア!まだ無理をしては。」
「一緒に寝てくれないなら、わたくしも、一緒に起きているわ!」
根負けしたフィロスが隣に入ってくる。でも、遠慮してベッドの端っこ、だ。
小さくため息をついて、
「フィロス。手を、つないでくださらないの?」
ほんの少し、フィロスが私の方に体をずらし、手をつないでくれる。
フィロスに、微笑む。
「お休みなさい。」
「ああ、お休み…。」
その夜から、フィロスは一緒に寝てくれるようになり、顔色もだいぶ良くなった。
目の下の隈がなかなか取れないので、まだまだ心配だけれど。
彼女と一緒のベッドで、眠れるか!と、フィロスの心の悲鳴が聞こえますが、慢性の睡眠不足と疲労で、知らず知らずのうちに、寝落ちして、少しは睡眠がとれています。