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魔術師ソフィアの青春  作者: 華月 理風
魔術学院5年生
135/172

5年生始業式の欠席



 1月10日、5年生の始業式に、私は、戻れなかった。


 私の身体は私が思うよりもはるかにずたずたになっていた。

フィロスが稀代の薬学魔術師で無かったら、とっくに死んでいた状態で、帰還したのだった。


フィロスは10代の時から危険な仕事に就いていたため、生死の狭間を何度もさまよった経験があった。だから、自分が生き残るために、あらゆる薬を研究し、実にたくさんの、新たな薬を生み出していた。

それらの門外不出の薬が、私の命をつなぎとめた。


それでも、一度、ずたずたになった内臓、筋肉、骨は無理やり再生しても、もともとの力を取り戻すのに時間がかかる。

その回復を早めるための薬を今も飲んでいるが、学院に戻るまで3週間かかる。とフィロスには宣告された。

3週間といっても、最低限、学院へ戻れるというだけのこと。

その後も、学院内でリハビリが必要だろう、という見立てだった。


3週間、ひとりでぼっちの療養を覚悟していたけれど、フィロスは学院に戻らない。ときっぱり、私に告げる。

薬学魔術は1か月、休講すると。

他の学生に迷惑をかけてしまう罪悪感は消えないけれど、すっかり弱っていた今の私はそれがとてもうれしかった。




 全く力が入らず動かなかった身体が1週間ほどで、ようやく1人で座っていられるようになる。

そうなってから、抱き上げてもらい、グレイスに会いに行って心配をかけたことを謝れば、グレイスにもさんざん泣かれてしまった。

「また、わたくしめを一人にされるおつもりでしたか?」


その頃になって、フィロスが、夜、ベッドで眠っていないことに気付く。

私の手を握ったまま、ベッドの横に置いた椅子で、うつらうつらする程度だということに。

私は夜、薬のおかげでぐっすり眠っており、どこにも行かないし、容体も急変する心配はなくなったのだから、私を自分のベッドに移し、この自分のベッドで寝てほしい。と懇願したけれど、フィロスは頑として首を縦に振らなかった。


私から離れるようなお願いをすれば、顔色がすぐに青くなり、悲痛な表情に変わってしまう。

いかに、彼を心配させてしまったのか一目瞭然で本当に心が痛い。

だからといって、このまま睡眠不足が続いたら、フィロスが倒れてしまう。

今の顔色は本当にひどいのだ。

青を通り越して黒ずんできているような気がしてならない。


「フィロス。今夜から一緒に寝て?」

夜、眠る時間になったとき、思い切って声をかけた。

「何を言っている?」

「怪我人を襲うほど、悪い人、じゃないでしょう?」

「おそっ…。当たり前だ。」

フィロスの顔が真っ赤に染まる。

「だったら、このベッド、とても大きいから、一緒に少し離れて寝られるでしょう?」

「…だめだ。」

まだ力が入らない身体に無理に力を入れて、起き上がる。

「ソフィア!まだ無理をしては。」

「一緒に寝てくれないなら、わたくしも、一緒に起きているわ!」


根負けしたフィロスが隣に入ってくる。でも、遠慮してベッドの端っこ、だ。

小さくため息をついて、

「フィロス。手を、つないでくださらないの?」


ほんの少し、フィロスが私の方に体をずらし、手をつないでくれる。

フィロスに、微笑む。

「お休みなさい。」

「ああ、お休み…。」


 その夜から、フィロスは一緒に寝てくれるようになり、顔色もだいぶ良くなった。

目の下の隈がなかなか取れないので、まだまだ心配だけれど。




彼女と一緒のベッドで、眠れるか!と、フィロスの心の悲鳴が聞こえますが、慢性の睡眠不足と疲労で、知らず知らずのうちに、寝落ちして、少しは睡眠がとれています。

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