ソフィアの目覚め
重く感じるまぶたを、こじあけるようにうっすらと開く。
…ここは?
薄暗くて、どこにいるか、わからない。
顔をゆっくり横に向けると、組んだ手を額にあててうつむいているフィロスが目に入った。
彼に触れたいと思って手を上げようとしたけれど、体が重くて動かない。
「フィロス?」
小さな、かすれた、声が、出た。
とたんに、フィロスがはじかれたように、顔を上げる。
「ソフィア!ああ、ソフィア!気付いたか!」
フィロスの両手が両頬をとらえ、彼の顔が間近に迫る。
死人のような真っ青な顔をして目の下にはくっきりと黒い隈ができている。
…ひどい、顔色だ。
「…ここは?」
「私の寝室だ。ああ、具合は、具合は、どうだ?」
体を動かそうとしたけれど、自分の身体とは思えないほど、重い。
「動けません…。」
「当たり前だ、ばかもの!死んでいて、おかしくない状態だったのだぞ!」
フィロスの顔がゆがむ。
私の顔の横の枕に彼の顔を押し付けて、腕を私の肩に回して抱きしめてくるその身体が、微かにふるえていた。
泣いているのだ。
「ごめん、なさい。心配かけちゃいました。」
「もういい。もういいんだ。私の元に帰ってきてくれた。それだけで。」
フィロスを抱きしめたかったけれど、腕が…、上がらない。
でも。
無事にこの人の腕の中に帰れたことが、うれしくて。
私の目尻からも涙が流れる。
「今日は、何日ですか?」
少し落ち着いてから、問いかけた。
「1月7日だ。…君が戻ってきたのは、1月2日。5日間、昏睡状態だった。」
「え?新学期まであと3日?」
「ばかもの!3日で回復するわけないだろう。」
「でも、学院に行かないと…。」
魔術師になれない。泣きそうだ。
「泣くな。全く…。怪我や病気で授業を欠席したのと同じ扱いだ。退学になるわけじゃない。」
「ほんと?」
「本当だ。心配しなくてよい。回復し次第、普通に学院へ戻れる。補講を受ければ授業の遅れなぞ、君なら問題ないだろう。」
だから、早く良くなれ、と、フィロスが悲痛な声で言う。
フィロスが薬の瓶を持ってきて、自分の口に含み私の唇から流し込んでくる。
「もう一度、寝なさい。この薬の効果が出るころには、少し、動けるようになるだろう。」
「そばに、いてくださる?」
「離れない。君から目を離したら、君はまたどこかに飛んで行ってしまいそうだから。」
どこにも行かないと言って安心させたかったけれど、急激に猛烈な眠気が襲い、また眠りの国に落ちていった。