まどろみ
「ねえ、あなた?」
明るい日差しが差し込むサンルームで、若い男女がお茶を飲んでいる。
「うん?どうした。フローラ。」
…ああ、フローラ様だ。さっき、お会いした。
相手の男性は逆光で顔がはっきりと見えないけれど、フローラ様の夫の初代スナイドレー公爵だろう。
二人ともずっしりと重そうだけれど、豪華な衣装を着てとってもきれいだ。
「わたくしが死んだときのこと、覚えていて?」
「ああ。思い出したくもないが、ね。」
「わたくしねえ。なんで、失敗したのかしら。ってずっと、考えていたの。だって、あの、こ憎たらしい魔術創成の神が教えてくれなかったのだもの。」
「そうか。」
「やっと、わかったの。」
「そうか。」
「失敗した原因はねえ。わたくし自身が、わたくしのためだけに、力を求めてしまったから、なのよねえ。自分のために何かを望んだら、それだけでダメだったのよ。」
「そうか。」
「わたくしは、ね。あなたに守られるだけなのが、嫌だったの。ううん。違うわね。わたくしは守られなければならないほど弱いと思いたくなかったの。だから、わたくしはあなたと同等に戦う力をわたくしに与えてほしい、と願ったの。」
「そうか。」
「…きっと、わたくしは、あなたより強くなって上に立ちたかったんだわ。あなたの強さを信じれば、良かったのに。」
「…。」
「あの子は守られるのを素直に喜んで受け入れていたわ。なぜなら、彼を完全に信じていたから。その上で、あの子は彼を守ろうとしたの。」
フローラの声が、ささやくように小さくなっていく。
「あの子は、わたくしより、ずっと、強いわ。」
「お前の方が強いよ。フローラ。」
初代スナイドレー公爵がフローラの手を取る。
「あそこは、建国のドラコ王が初めて魔力を授かった場所、と聞いている。」
「そうなの?」
「ドラコ王はどれだけの試練を受けて、授かったのであろうな。」
「そうね…。」
そうか、あそこは、そういう場所、だったんだ。
きっと、魔術発祥の地。
魔術の神々が集う場所…。
…2人の姿が、だんだん、薄れていく。